良いニュースなのか悪いニュースなのか分からないが、10月13日に発表されたCPI(消費者物価指数)のデータによるとアメリカのインフレ率が少々持ち直した。
持ち直したインフレ率
いつも通り順番に内容を見てゆこう。まずは全体の数字だが、9月のCPIは前月比年率(以下同じ)で5.1%の上昇となり、前月の3.3%からやや持ち直した。上昇率のグラフは次のようになっている。
前月までの減速が一応は止まったという様子である。
アメリカの物価の現状だが、見ての通り今年3月の現金給付や半導体不足による自動車価格の高騰が一度物価を急騰させたが、その後そうした短期要因が剥落するにつれインフレは減速していた。
それが今回止まったわけだが、それをどう解釈するかである。
減速停止の理由
とりあえず内訳を見てゆこう。東南アジアなどの工場が新型コロナの蔓延で操業停止になったことなどの影響から半導体が世界的に不足しており、そのことによる中古車価格の高騰がCPIをここまで押し上げていた要因である。
ではその中古車価格はどうなったのかと言えば、今月では中古車は-8.1%の下落となり、前月の-17.0%からは持ち直したものの下落が続いている。
ただ、これは上昇率のチャートである。絶対値としては中古車価格は今年前半の上昇のためにまだまだ高い位置におり、半導体不足が解消されればその分下落しなければならないということになる。しかしとりあえず中古車価格は今回の数字を押し上げた要因ではないようである。
CPIの内訳の中でもう1つ注目したいのは、持ち家に家賃を払ったと仮定して算出する「持ち家のみなし家賃」である。アメリカでは住宅価格の高騰が問題となっており、特にコロナで職を失っている人々にとっては死活問題となっている。
住宅市場の数字をCPIに反映させるのが持ち家のみなし家賃なのだが、この数字は今回5.3%の上昇となり、前月の3.1%から加速している。
今回目立って上昇しているのはこれである。
住宅価格の上昇
そもそも住宅価格は市場価格としてはもっと上昇している。しかし債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏や経済学者のラリー・サマーズ氏らは、その状況がCPIに反映されていないと主張していた。ガンドラック氏の以下のコメントを思い出そう。
CPIは実態を表していない。住宅価格のインフレを計算するための家主のみなし賃料は12ヶ月で2%の上昇となっているが、住宅価格の上昇は17%だ。
家主のみなし賃料を住宅価格で置き換えて計算すると現在のインフレ率は年間8%ということになる。
恐らくは時間が経てば反映されるのだろうと推測されていたが、やはりそれが効いてきたようである。
結論
前回のCPI発表ではインフレ減速をアメリカ経済の減速の証拠として取り上げた。
今回はそれが止まったわけだが、止まらない住宅価格は必ずしも良い材料ではないだろう。何故ならば、消費などアメリカ経済の他の指標は悪化の一途をたどっているからである。
減速する経済成長と底上げされる物価。大分スタグフレーションの匂いがしてきたのではないか。この状況では中央銀行は緩和をすると物価が高騰し、引き締めをすると経済が死ぬというジレンマから逃れられなくなる。
経済が弱い時にインフレのために金融緩和が出来なくなる。量的緩和を頼りにここまで無理矢理GDPを底上げしてきたアメリカ経済が実質的には詰んだということである。リフレ派の経済学者たちはさぞデフレを懐かしむことだろう。
日本では選挙戦で現金給付の話が盛り上がっているが、アメリカでこの窮地を生んだのがまさに現金給付である。
アメリカ経済は遠からず苦渋の選択を強いられることになるだろう。日本人は現金給付によって経済がこういう方向に進もうとしているということを理解しているのだろうか。