最近の経済統計によってアメリカ経済の現状が徐々に明らかになってきたのではないか。少し前に発表された9月のアメリカの雇用統計は非農業部門就業者数が19万4,000人の増加となり、労働者数の伸びが鈍化していることが明らかになった。
鈍化する雇用の伸び
個人消費などと同様、雇用の伸びも鈍化しているようだ。しかしより重要なのはコロナ前との労働者数の比較である。
非農業部門就業者数のチャートを見てみよう。
チャートからもここ数ヶ月の伸びが緩やかになっていることが分かるが、より重要なのは労働者数がコロナ前の水準にまったく及んでいないことである。
一方で個人消費はどうなっていただろうか。
こちらも何ヶ月も停滞しているのだが、絶対的な水準で言えばコロナ前の水準を大幅に上回っている。これは当然ながらアメリカで3回行われた現金給付のためである。だから現金給付が打ち止めになった後は停滞している。
大量の消費と少ない労働者
重要なのは労働者数と消費の絶対水準の違いである。コロナで職を失った人はまだまだ職場に戻れていない。これがコロナ後の経済の本当の姿だろう。一方で消費は現金給付によって無理矢理に持ち上げられ、コロナ前に比べて急増している。
これはつまり、商品やサービスを供給するための人員が減少しているにもかかわらず、求められる量は増えているということである。現金をばら撒いた結果働かずともものが買えてしまう世界の飾らない姿がここにある。日本でも選挙戦で現金給付が話題になっているようだが、この理屈は馬鹿でなければ分かりそうなものである。
このままでは当然ながらアメリカの物価高騰は続くだろう。解決策は2つある。需要(消費)を減らすか、供給(労働者)を増やすかである。
しかし労働者は急激に増やすことは出来ない。よってインフレを解決するには現金給付で無理矢理増やした分の需要を減らすしかない。
実際、現金給付は3月を最後に行われていないので、個人消費は既に停滞している。
だからインフレはある程度収まるだろう。しかしこの解決法の問題点は、消費まで労働者数と同じようにコロナ前の水準を大幅に下回ることになれば、それはつまりGDPがコロナ前の水準を大幅に下回ることになり、つまりは大不況になるということである。
だからもうアメリカ経済には大不況になるか、現金給付をこれからも続けることで高水準の消費を維持し、そして猛烈な物価高騰になるかどちらかの選択肢しかないのである。
結論
Fed(連邦準備制度)はこの状況でテーパリング(量的緩和縮小)と利上げをすると言っている。現金給付なしで金融引き締めならデフレ不況、現金給付ありで金融引き締めならスタグフレーションである。どちらにしても無理があるだろう。
債券市場や為替市場は今のところそれを信じて動いている。例えばドル円は以下のように推移している。
しかしアメリカ経済の実情を知っている人間にはこうした動きがせいぜい数ヶ月しか続かないことが分かるだろう。中央銀行も市場も、一部の投資家には既に分かっている経路を行って戻ってくることになる。