Fedのクラリダ副議長、去年のコロナ下落相場で株式ETFを底値買い

現役の中央銀行家のポジションをヘッジファンドのポジションと同じような論調で報じる日が来るとは思っていなかった。丁度昨年にスタンレー・ドラッケンミラー氏がハイテク株を買い増したのと似た時期である。

クラリダ氏の株式底値買い

アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)のリチャード・クラリダ副議長は去年、ヨーロッパやアメリカでも新型コロナウィルスが広がり始め、株式市場が暴落していた時にPIMCO StocksPLUS FundやiShares MSCI USA Min Vol Factor ETFなどの株式ETFを買い込んでいた。

開示によれば購入の日付は2020年2月27日である。新型コロナが世界中に広がり株式市場がパニックになっていた時であり、翌日の28日にはパウエル議長が介入の意志を表明した。当時のことはここではリアルタイムで報じている。

当時を思い出すために、この記事から感染状況についてのコメントを抜粋してみよう。

筆者はヨーロッパにおける流行拡大は不可避だと予想している。イタリアの感染者数は既に1,100人を超えており、そのイタリアと国境を接しているフランスやスイス、オーストリアは国境を開けたままにしている。これで感染が広がらないとすれば奇跡だろう。

そして数日後の3月3日にはFedは実際に0.5%の緊急利下げを行なった。しかしそれでは十分ではなく、その後利下げ幅は拡大され、量的緩和の規模拡大も行われることになる。

クラリダ氏のトレード手腕

クラリダ氏はトランプ元大統領によって副議長に任命される前まではコロンビア大学などで教鞭を取っていた経済学者だから、トレードは素人である。彼の買い判断はどうだっただろうか?

当時、既に株式市場は15%以上も下げていた。彼はこれを大暴落と考え、中央銀行が利下げを行えば株式はこの底値から反発すると予想した。しかしそれは全然底値ではなかった。

これはクラリダ氏が購入したiShares MSCI USA Min Vol Factor ETFのチャートである。彼が緊急利下げを頼りに株を購入した2月末が暴落の始まりでしかないことが分かる。

結局、金融政策は実体経済どころか株価に対しても万能ではなかった。最終的に株価を反転させたのはアメリカとヨーロッパにおけるコロナ第1波がピークに達したことだった。

しかし結局、長期的に見れば米国株はその後上がっているから、トレードの素人としては下落で上手く買ったわけであり、特に筆者には想像もつかない鋭敏な感性によってFedの動きを何故か非常に的確に言い当てた点についてはFedのクラリダ副議長を褒めても良いのだろう。

結論

コミカルには書いたが、この話は完全に馬鹿げており、個別銘柄ではなくETFだから良いという話でもない。規制当局の人間が個別株を買えずETFしか買えないのはよくある話だが、中央銀行の場合は個別株よりも株式市場全体に影響を及ぼす機関であるため、そもそも有価証券の売買を許されるべきではない。

というより、そもそも中央銀行自体が有価証券の売買を許されるべきではないのである。これについては著名投資家たちが十分に書き尽くしているのでそちらを参考にしてほしい。

しかし基本的に政治に関わる人々とはこういうものである。東京オリンピックやGO TOトラベルを見ていれば明らかだろう。経済学者ハイエク氏の嘆きが人々に届く時は果たしてやって来るのだろうか。