ジョージ・ソロス氏とともにQuantum Fundを立ち上げたジム・ロジャーズ氏がThe Economic Timesのインタビューで恒大集団と不動産バブルを含む最近の中国について語っている。
娘に中国語を習わせるためにわざわざシンガポールに移住したロジャーズ氏には珍しく、中国市場に強気ではないコメントである。
中国政府の自国叩き
中国でGDP2%分の負債を抱えて倒産しかけている不動産ディベロッパーの恒大集団だが、元々のきっかけは中国政府が不動産バブルを抑制するために規制強化をしたことである。
また同時に最近の中国は、自国のIT産業や教育業界、ゲーム産業などを締め付けたり、エコな電力に移行するために石炭や化石燃料を締め付けた結果深刻な電力不足に陥ったりと自殺的な行動が多い。
こうした最近の中国の動向について聞かれ、ロジャーズ氏は次のように述べている。
不動産については、中国には数十億ドルの規制されない貸し付けが横行していた。そのままでは大惨事になっただろう。一部の人々に不当な利益を与えてもいた。だから中国政府がそれを止めようとしているのは良いことだ。
しかし他のことについては良く分からない。中国政府はたくさんの人々を害しており、それが市場を下落させている。
自国の産業を潰すような中国政府の意図については良く分からない。しかしどうやら恒大集団の倒産も中国政府の狙いであったようだから、中国政府が初志貫徹するならば恒大集団を救済する可能性は低いだろう。
しかもゲーム業界や学習塾への締め付けとは違い、恒大集団のようなゾンビ企業を破綻させることは経済にとってプラスである。そうでなければ、誰も住みたがらない膨大な数の住宅のために資源が使われ続けることになる。ゾンビ企業を活かし続けることは人的資源と天然資源の浪費を意味する。それが緩和的政策のコストである。
負債を退治する
中国は中国経済に存在する負債を縮小しようとしている。中国の抱える負債についてロジャーズ氏は次のように述べている。
中国はいまや巨額の負債を抱えている。20年前にはそうではなかった。中国政府は人々を破産させると言っている。そして実際にそうしている。それが続くことを願っている。それは中国にとって良いことだ。世界にとっても良いことだ。
元々アメリカや日本のような負債を負っていなかったはずの中国経済は短期間の間に急激な経済成長を遂げたが、その代償も大きいようである。ロジャーズ氏は次のように続ける。
25年前には中国は負債を背負っていなかったが、今では膨大な負債を積み上げている。中国政府はそれを何とかしようとしているが、あまりに大きくなったために沢山の人が被害を受けている。
倒産した会社の債券を持っている人は被害を受ける。わたしもあなたをそれを知っている。中国はそれを学ぼうとしている。中国が負債に対処するために倒産を引き起こすならば、それには苦痛を伴う。しかしわたしたちには皆それが必要だ。
今バブルを弾けさせなければ更に膨れ上がってから弾けさせることになる。しかし恒大集団の破綻危機から始まるバブル崩壊に伴う苦痛がどのようなものになるかが投資家にとっての問題である。
金融市場への影響
ロジャーズ氏は次のように言う。
金融市場はしばらく下がることになるだろう。だがこれは世界の終わりではないし、多くの中国企業が倒産することになってもそれは世界の終わりではない。
この危機では沢山のものの価格がしばらくの間下落することになるだろうが、割安になったものがあれば何でもそれを買えるだけ賢くありたいと思う。
基本的に長期投資家であるロジャーズ氏は、金融市場が下がった後に割安になったものを買いたいと言う。しかし多くの投資家は、その前にそもそも何が下がるのかが気になるだろう。
ロジャーズ氏が「沢山のものの価格が下落する」と言う時、彼の頭にあるものは何だろうか。色々なものが浮かんでいるのだろうが、第一のものは恐らく鉄鉱石だろう。鉄鉱石と銅は市場で恒大集団の問題が話題になる前にここで売り推奨を出しておいた銘柄である。
ロジャーズ氏は自分の名前を冠するコモディティインデックスがあるほどのコモディティの専門家だから、中国の不動産に大量の鉄鉱石が使われ、中国が世界の鉄鉱石輸入の75%を占めていることが間違いなく頭の中にあるはずである。
ロジャーズ氏は中国の他にコモディティ全般に対しても強気だった。だから彼が「割安になれば買いたい」というのは主にコモディティだろう。そしてそれはそうした銘柄が一時的に下がる可能性があるということを示唆している。
また、ロジャーズ氏はコモディティの買い銘柄に「銀」と「農作物」を強調した。鉄鉱石や銅とは言わないだろう。金も下がれば買いたいとのことで、それは筆者とも一致している。金の底値のタイミングについては前回の記事の最後で説明している。
アメリカの金融政策
また、ロジャーズ氏はテーパリング(量的緩和縮小)を開始しようとしているアメリカの中央銀行が中国経済の減速によって緩和を再開すると予想している。もはやこれは著名投資家たちにおける既定路線である。
中国が債務を減らそうとしていることを良いことだと断じたロジャーズ氏は、そうした動向について次のように述べている。
それは世界にとって良いことだろうか? 答えはノーだ。彼らは世界のことは考えていない。自分の職のことを考えている。
彼らは自分が職を失わないためなら何でもするだろう。それはつまり大量の紙幣を印刷し、非常に緩和的になるということだ。それがまた起きようとしている。