タカ派のクリーブランド連銀総裁、9月のテーパリング発表を否定

9月21日から22日のFOMC会合に向けてFed(連邦準備制度)の内部が慌ただしくなっている。何人もの委員がこの会合でのテーパリング(量的緩和縮小)発表を支持している一方で、それに難色を示した委員もいる。クリーブランド連銀総裁のロレッタ・メスター氏である。

Fed内部の対立

以前の記事で伝えたが、Fed内部ではパウエル議長が早急なテーパリング開始を躊躇っているにもかかわらず、彼の頭を飛び越して何人もの委員が9月のテーパリング発表に言及した。

しかし意外にもそれに乗らなかった委員がいる。普段はタカ派として知られるメスター氏である。彼女はBloombergのインタビューで次のように説明している。

物価が2%に達しており、2%を大きく超えているという結論を出すまでにもう少しデータを見たい。

インフレの上ぶれリスクは存在し、われわれは物価の変動に注意を払う必要がある。しかしインフレのいくつかの要素はコロナによって引き起こされたサプライチェーンの問題が解決すれば落ち着くだろう。

インフレを懸念する側も問題ないと主張する側も、現在のインフレの数字には短期的な押し上げ要因が存在するという点では一致しており、これから数ヶ月はそれが剥落してゆく段階である。

メスター氏はパウエル氏のように「インフレは短期的で問題ない」と主張しているのではない。しかし恐らくは、短期的要因が剥落した後にインフレが何処に着地するのかを見極めてからテーパリングを開始したいのだろう。彼女は次のように述べている。

テーパリングを9月に発表し11月に開始するのか、11月に発表し12月に開始するのかは経済にとって大した問題ではないと思う。

ピークを過ぎたアメリカ経済

メスター氏の言う「2%を超えているか」の問題で言えば、短期的要因が剥落しても2%は大きく超えるだろう。現在のアメリカのインフレ率は前月比年率で5.8%となっている。

しかしアメリカ経済はインフレ以外の指標で見てもピークを超えて減速が始まっている。個人消費やマネーサプライなどのデータを見れば、これまでアメリカ経済を支えていたのが現金給付だったことが分かる。現金給付がなくなれば、アメリカ経済は沈んでゆくしかないのである。

恐らくは、仮に筆者が中央銀行家だったとすれば、パウエル氏でも反乱組でもなくメスター氏に同意するだろう。インフレは懸念するが、今は短期要因剥落後のデータが非常に重要なタイミングであり、動くとすればそれを見極めてからにしたい。

一方で経済学者のラリー・サマーズ氏が指摘した通り、短期要因が本当に短期要因なのかという問題もある。

半導体不足で自動車が作れなくなり中古車価格が高騰しているが、それはコロナの流行でアジアの工場が動かなくなっているからである。

こうしたサプライチェーンの問題は短期的に解決するのだろうか? ある程度はするだろうが、その意味ではデルタ株をデフレではなくインフレ要因とするサマーズ氏の考え方も一理あるのである。

9月のFOMC会合を前にFed内部はなかなか複雑な状況になってきた。テーパリング発表はあるのだろうか?