いくらかサプライズ的なニュースが入ってきた。何人かのFed(連邦準備制度)の委員が、パウエル議長の主張を完全に無視して9月のテーパリング発表を支持している。
テーパリングはいつか
アメリカでは多額の現金給付によって引き起こされたインフレが問題になっている。パウエル議長はインフレは一時的で問題ではないと主張し続けているが、他の委員はそう思っていないようである。
Fedはテーパリング(量的緩和の縮小)を考えているが、問題となるのがその開始時期である。ダラス連銀総裁のカプラン氏はテーパリングについて次のように述べている。
9月の会合でテーパリングの計画を発表し、10月には実際にテーパリングを始めるべきだと主張しようと思っている。
資産買い入れプログラムは住宅市場に過大な需要と不均衡を招いており、住宅価格が高騰している。
テーパリングの9月発表を明確に支持した。その理由は住宅価格の高騰である。アメリカのインフレ問題の中で恐らく住宅価格の高騰がアメリカ国民にとって一番差し迫った問題だろう。
そして9月発表を支持しているのはカプラン氏だけではない。セントルイス連銀総裁のブラード氏も次のように述べている。
われわれはインフレ率が一定期間2%目標より高く推移することを許容するとは言ったが、目標よりこれほど高く推移して良いとは言っていない。
ちなみに現在のアメリカのインフレ率は前月比年率で5.8%である。2%は非常に大きく超えている。
インフレ率は3月に行われた現金給付の影響など短期要因がここから剥落してゆくと思われるが、どちらにしても2%は超えてくるだろう。
ブラード氏はテーパリングについては次のように述べている。
だからテーパリングを始めるべきだと思う。テーパリングを来年3月までに終わらせるべきだ。
カプラン氏とは開始時期に言及したか終了時期に言及したかの違いはあるが、テーパリングを来年3月に終わらせるためにはやはり10月には開始しなければならないだろうから、カプラン氏と同意見ということだろう。
増えるタカ派の委員たち
カプラン氏とブラード氏は以前よりテーパリングを支持していた連銀総裁だから、時期を明示した点は新しいが驚きではないだろう。
しかし月末になり他にもテーパリングを支持する中央銀行家が増えている。例えばアトランタ連銀総裁のボスティック氏もテーパリングの10月開始に言及している。
8月の雇用の伸びが6月、7月並みの100万人近くになれば、10月というタイミングは適当だろうと思う。
10月に開始ということは、つまりは次の9月の会合で発表するということである。
更にはウォラー理事も次のように発言している。
秋の初めにはテーパリングを開始したい。来年まで待つ理由は見当たらない。来週の雇用統計で非常に悪い数字でも出れば話は別だが、そういう状況も予想していない。
秋の初めということだから、これも10月開始を支持する発言だろう。
明確になる反パウエル派の姿勢
これらの態度は議長であるパウエル氏の姿勢とは異なる。パウエル氏はインフレは一時的との姿勢を崩しておらず、テーパリングの時期も曖昧にしてきた。しかし議長のパウエル氏よりも早く、委員たちがテーパリングの開始時期に言及してしまった。
これは結構驚きの状況である。前任者であるバーナンキ氏やイエレン氏の時には、Fedのメンバーはこれほどまでもあからさまに議長の意見を無視して話を進めようとしたことはなかった。意見の違いがあったとしても、Fedのメンバーは高名な経済学者であるバーナンキ氏やイエレン氏を尊敬しており、議長を無視することなく議長と話し合って全体の総意を形成してゆく努力が見られていた。
しかしこれは全く遠慮のないパウエル氏への反乱である。前任者とは違い、PEファンド出身でマクロ経済学の素人であるパウエル氏の物価に関する主張を委員らはまったく気に留めずに話を進めようとしている。
結論
これは7月の記事で予想していた状況である。
9月のFOMC会合がどうなるかと言えば、率直に言って不透明だろう。恐らく当事者も分かっていないに違いない。反パウエル派の委員らも議長の意見を押し切って9月に発表できるかどうかは確信がないだろうし、パウエル氏もこれらの委員をなだめてテーパリングを少し遅らせられるか確信など持てないだろう。
金融市場としてはテーパリングの時期が10月になるのか12月になるのかは大した問題ではない。しかしパウエル議長が連銀総裁らに押し切られてしまうほど内部で信頼されていないのかどうかは投資家にとって大きな問題である。その後のFedの動きを予想する要因になるからである。