ついにカシュカリ氏まで、と思った読者はアメリカの中央銀行を十分にフォローしている読者かもしれない。Fed(連邦準備制度)で伝統的にハト派として知られるミネアポリス連銀総裁のニール・カシュカリ氏がテーパリング(量的緩和縮小)に賛同する意見を表明した。ReutersやBloombergなどが報じている。
ミネアポリス連銀総裁のテーパリング支持
長らくの読者はご存知だろうが、ミネアポリス連銀は前任のコチャラコタ氏の頃からハト派の連銀として知られる。
ドナルド・トランプ前大統領がジャネット・イエレン前議長の後任を選んでいたとき、半分冗談だろうがジェフリー・ガンドラック氏はカシュカリ氏がハト派だという理由だけでトランプ氏が次期議長に選ぶのではないかと予想した。
それくらい投資家にとってミネアポリス連銀はハト派のイメージが強いのである。
そのカシュカリ氏が早ければ年末のテーパリングを支持した。彼は次のように述べている。
問題はテーパリングを始めるのかどうかではなく、いつ始めるのかだ。
それが今年の終わりなのか、来年の初めなのかについて多くの議論があるが、いずれにしてもそれぐらいが妥当だろう。しかし究極的には経済統計次第だ。
また、カシュカリ氏は次のように続けている。
7月のような強い雇用統計がもう数ヶ月続けば、多分完全には経済に空いた穴を防げたわけではないかもしれないが、経済には大きな進展があった、テーパリングを始める時期だと言うことができるだろう。
やはり早ければ年末ということである。そしてこれはFed内でもっともハト派の連銀総裁の意見である。
カシュカリ氏さえタカ派ならば
カシュカリ氏を知る投資家は当然こう思うだろう。ミネアポリス連銀さえもテーパリングを支持するならば、誰が反対するのか?
何人かパウエル議長に気を遣っている委員はいるが、実際にはもはやパウエル氏ぐらいしかハト派は残っていないのかもしれない。そして何度も言っているが、パウエル氏はハト派なのではなく、以前2018年に自分の金融引き締めで株価を暴落させたので、それをもう一度やりたくないのである。
それまで彼はタカ派だった。当時、株価が暴落する前に金融引き締めに反対した連銀総裁こそが、カシュカリ氏だったのである。以下の記事で報じている。
当時カシュカリ氏が利上げに反対した理由こそが、インフレが差し迫っていなかったからだろう。しかし今回はインフレが差し迫っている。だから物価安定を責務とする中央銀行家としてテーパリングを支持したのである。
ミネアポリス連銀総裁さえ緩和縮小に賛成している状況で議長が渋っているという状況は、記憶にある限りちょっと例を思い出せない。そもそも物価高騰が実際に問題となっている状況で最大限の緩和を継続する理由があるだろうか?
実際にはあるのかもしれない。コロナ禍で大きく沈んだ経済を大規模緩和で無理矢理持ち上げたのである。言い換えれば緩和以外に拠り所がない状態で緩和を引き上げれば、株式市場がそう長くは持たないことは想像に難くない。
株価の天井はいつだろうか? 2018年の金融引き締めと株価暴落の例が基準にはなるが、経済が当時より困窮していることを考えれば、株価は当時ほど引き締めに持ちこたえることは出来ないだろう。
しかしカシュカリ氏のタカ派宣言で、テーパリングまでもうあまり猶予がないということが示された。パウエル氏だけが自分の責任問題を気にしている。もう少しまともな中央銀行家である他の委員らは、株価よりも物価安定を優先するだろう。
事前に予想した通り、Fedはパウエル氏の判断抜きで進んでゆくのである。