サマーズ氏が今後3%のインフレ率が定着するプロセスを説明する

アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がwburのインタビューでインフレについて語っているので紹介したい。

インフレは継続するか

アメリカの物価上昇はとりあえず減速した。それが最新の物価統計の現状である。

短期的なインフレ減速については債券投資家ジェフリー・ガンドラック氏の想定内のことである。

しかし問題は短期的な減速のあとインフレ率が長期的にどうなってゆくのかである。長期的なインフレを予想するサマーズ氏は今回物価がこれから上がってゆく様子を具体的に説明してくれている。彼はまず次のように述べている。

これから2つの大きなものが表面化する。まず住居に関する費用が2桁パーセントの割合で上昇しようとしている。そして記録的な労働力不足に見舞われていると雇用者が主張している。

これまで報じているように、住宅価格の2桁上昇は既に始まっていることである。

しかし住宅価格の上昇はすぐにはCPI(消費者物価指数)には反映されない。価格が上がってから家賃が上がるまでに時間差があるからである。しかし住宅価格が2桁上昇しているということは、家賃もいずれ2桁上昇するということである。それがCPIに反映された時にどうなるか。

また、サマーズ氏は雇用者が従業員を見つけられない現状についても憂慮している。これはガンドラック氏も指摘していた。

800万の求人が満たされないままになっている。何処に行っても企業は「求人が埋まらない。誰も応募してくれない」と言っている。

ガンドラック氏の言うように手厚すぎる失業保険が人々を失業から抜け出さなくさせているというのもあるが、コロナで人々の働き方が変わったというのもあるだろう。

賃金はどう上昇するか

この状況がこのまま続くとどうなるか。賃金が上がるのである。それがサマーズ氏が長期的なインフレを予想する一番の理由である。彼は次のように説明している。

物価上昇は賃金上昇を上回っている。これは物価・賃金の上昇スパイラルの初期に通常見られることだ。労働力不足がより深刻になれば、賃金もまた大幅な上昇を始める。

そして賃金が上がればそれが製品やサービスの値段に上乗せされる。そうすれば人々は多少無理をしてでも給料の高い職を探そうとする。こうしてインフレスパイラルが出来てゆくのである。

サマーズ氏は賃金が上がってゆく様子を具体的な例を上げて説明してくれている。

普段5人のウェイターがいるレストランは今3人のウェイターで回している。

オーナーにとっては短期的には良いことだろう。支払う賃金は少なくなったが提供する料理の量は変わらない。だから多く儲かる。

しかしこれは続かない。追加のウェイターを雇うか賃金を上げるかしなければウェイターは全員辞めるだろうからだ。

だから賃金上昇が物価上昇に追いつくというのがこのインフレのサイクルで次に起こることだ。

インフレのニューノーマル

今後この賃金・物価スパイラルが続けばインフレ率はどうなってゆくのか。サマーズ氏は具体的な数字を予想している。

インフレから始まり、今後数ヶ月か半年の間非常に高い成長率となる。実体経済に未曾有の構造の変化があるなかで失業率が5.5%となっている。

結果としてインフレ率のニューノーマルは3%を超えることになる。

また、長期のインフレ懐疑派に対しては次のように述べた。

インフレが自然にソフトランディングするという考えは、未曾有の労働力不足や国民の銀行口座に積み上げられた未曾有のキャッシュの量を考えれば正しい想定には思えない。

インフレはどうなってゆくのか。重要な点はインフレや雇用統計などの現状の数字だけを考えるのではなく、その背景にある経済の実情をもっとよく考えてみることだろう。

物価高騰が続けば中央銀行は強力な金融引き締めを余儀なくされる。そうなれば株式市場の未来は暗いものになるだろう。

(※8/13一部誤植を修正しました)