絶好調に見えて実は満身創痍の第2四半期米国GDP

2021年第2四半期のGDP速報値が発表され、実質GDP成長率は6.5%(前期比年率、以下同じ)となった。第1四半期の6.3%から少し加速した形となる。

実質GDPはコロナ前の水準を突破

アメリカでは物価高騰が懸念される中、今やGDP成長率よりもインフレ率の方が大切な統計となっているが、GDPの内訳にも投資家に大きな情報を与えてくれるものがある。絶好調に見える全体の数字に騙されてはいけないのである。

順番に見てゆくが、先ずは実質GDP全体の推移をチャートで見てみよう。成長率ではなくGDPの数値そのもののチャートである。

ついにアメリカのGDPはコロナ前の水準を突破した。

この規模の景気後退がこれだけの速度で回復したのは史上例がないのではないか。これは明らかにコロナ後に行われた現金給付やインフラ投資などの刺激策のお陰である。コロナ初期にジェフリー・ガンドラック氏が過剰と批判した刺激策の結果がこういうものになった。

全体の数字だけを見れば絶好調のように思えるアメリカ経済だが、内訳を見れば懸念すべき点がはっきりしてくるのである。

横ばいの個人消費

懸念すべき点とはまず個人消費の動向である。実質個人消費は11.8%の成長となり、前期の11.4%をやや上回る高成長を維持している。

しかし状況はそう楽観できるものではない、GDPの内訳のうち個人消費については四半期ごとではなく月ごとのデータが出ているので、そのチャートを掲載すると次のようになる。

3月に急上昇し、その後4月、5月、6月とほぼ横ばいになっているのが分かるだろうか。

これは何故か? アメリカでは3月にコロナ後3度目となる現金給付が行われたからである。そしてその後は伸び悩んでいる。第2四半期は4月から6月なので第1四半期の1月から3月に比べて成長率は高い数字になるが、月次のチャートを見ればその後の成長がないことが読み取れる。

減速する投資

見ての通り個人消費は明らかに現金給付頼みである。それが弾切れになると何故まずいのか。企業投資が縮小し続けているからである。

実質国内民間総投資は-3.5%のマイナス成長となり、年末のピークから更に下降した。

チャートが下を向いている。

原因はいくつかあるだろう。コロナで状況を見通しにくい中で企業が設備投資を渋っている。特にリモートワークが主流になると物理的な施設が必要ではなくなり、設備投資をするにしてもその金額は減るだろう。

しかし一番の理由は昨年からの長期金利の上昇かもしれない。企業が設備投資を行うには銀行から融資を受けることが多いが、その金利が上昇すれば企業はお金を借りにくくなる。

ただ、長期金利は春頃から再び下落を始めている。この低金利トレンドが続けば、設備投資もある程度は持ち直す可能性がある。詳しくはスコット・マイナード氏の記事を参考にしてほしい。

政府支出も頭打ち

そしてまた重要なのが政府支出・投資である。実質政府支出・投資は-1.5%のマイナス成長となった。しかしチャートを見た方が状況は分かりやすいだろう。

高水準で推移しているが成長率は鈍い。

政府支出がGDPの直接の構成要素であるため財政出動をすればGDPはその分だけ増加することにはなるが、GDPの成長を維持するためには増加した支出をその後も続けなければならない。そうでなければマイナス成長になってしまう。そして高成長を続けようと思えばどんどん支出を増やさなければならないのである。

それで政府支出による成長率の底上げ効果も、高水準の支出が続いているにも関わらず打ち止めとなっている。現金給付に依存していた個人消費と同じ状況である。

急降下の貿易収支

最後に輸出入だが、元々赤字だったアメリカの輸出入はコロナ後に急降下している。

現金給付などの刺激策で輸入が増えたのだろう。ガンドラック氏はアメリカの緩和策がアメリカではなく中国を潤していると言っていたが、こういうことである。

輸出入がアメリカのGDPを底上げすることは期待できそうにない。

結論

ということで、株式市場だけ見れば絶好調のアメリカ経済だが、GDPを内訳まで見ると良いところがまるでないことが分かる。完全に現金給付と低金利に依存しており、現金給付の方は打ち止めとなっている。

ここまで考えると「これ以上ない好景気」だから売りだと主張しているマイナード氏の言い分が分かる。

そしてガンドラック氏は追加緩和で物価高騰か、追加緩和なしで景気後退かどちらかの選択肢しかないと言っている。

アメリカ経済は実際にはかなり満身創痍である。そしてこの状況は、これだけ政府が散財してもドルがまだ下落していないという一点に支えられている。以下はドル円のチャートである。

だがそれもいつまで持つだろうか。

ドルが最後の砦である。ドルが緩和策に反応して下落し始めたら、いくら緩和しても外貨建てで見ればアメリカ経済は沈んでゆく。

レイ・ダリオ氏の言う通り、ドルが下落したらアメリカは終わりなのである。