株価下落と金利低下の理由

株式市場が多少荒れてきた。最近怒涛の勢いで予想を当てているスコット・マイナード氏の株価下落予想が当たりそうでまだ当たっていない状況が続いている。

短期的な値動きに反応して記事を書くのは性分ではないが、現在の金融市場の状況を一度纏めておこう。

株価下落の原因

株価が荒れる材料があるとすれば、まず好材料が出尽くしたことだろう。2020年3月の底値からここまで、コロナの流行にもかかわらず株価が上昇してきた理由は金融緩和と政府の現金給付・インフラ投資である。

一番の要因は現金給付で、その威力については以下の記事で解説しておいた。

トランプ政権から現在のバイデン政権まで、アメリカで現金給付は都度3回行われたが、今年3月の3回目の給付を最後に次の給付は目処が立っていない。

インフラ投資もバイデン政権が発表してから数ヶ月が立っており、株式市場にとって材料として目新しいものではなくなっている。

そして追加の緩和があるとすれば中間選挙のある2022年11月に向けてということになるだろうから、年内は基本的に何も出ない可能性が高く、株式市場は材料のないまま6ヶ月を過ごさなければならないということになる。「噂で買って事実で売る」の言葉通り、金融市場ではニュースは事前に織り込まれてしまい、新しいニュースが出なくなった時点で株価が下落することはよくあることである。

一方で金融緩和がどうかと言えばこちらも雲行きが怪しい。Fed(連邦準備制度)のパウエル議長は「インフレは一時的」と言い続けていたが、Fedは6月の会合でいきなり利上げとテーパリング(量的緩和縮小)を示唆した。他のメンバーが上昇を続けるインフレ率を見て淡々と利上げを支持したものと思われる。

そしてインフレはまだ止まっていない。

好材料のない株式市場

ということで、目下株式市場には好材料が特にない。あえて言えば長期金利が低下していることだろうか。

しかしコロナも変異株が世界的に流行を開始している今、経済再開が株価を押し上げるというシナリオもないだろう。株式市場が独自の買い材料が何もないまま今年後半を過ごさなければならないことは事実で、これまであらゆる好材料(コロナによる景気後退も、それ以上の資金注入があれば株式には好材料である)を織り込み続けてきた株式市場である程度の手仕舞いがあってもおかしくはない。

この状況はいつ変わるだろうか? まずは追加の財政刺激が議論されそうな時期だが、上に述べた通り中間選挙が2022年11月なので早くても年明けになる。

これより早い転換点はインフレ相場の再開だろう。勿論インフレはハイテク株にはマイナスになるので株式市場にとって一概にプラスとは言えないが、株式もコモディティも一様に調整局面にある現在の相場とは様相の違った新たな相場になるはずである。

その転換点は物価統計から今年3月の現金給付や半導体不足による自動車不足などの短期要因が消え、その後に現在のインフレは短期要因だけではないということがはっきりしてくるタイミングということになる。

現在、物価統計は短期要因の剥落が予想されてはいるが、剥落はまだ始まっていない。

剥落が始まってから数ヶ月後がそのタイミングになるだろうから、これもやはり年末か遅ければ年始ということになるだろう。

結論

よって株式市場は少なくとも数ヶ月「何もない相場」を続けそうである。

この期間をどうトレードするか? もしマイナード氏の言うように株式市場に調整があるとすれば、為替相場にチャンスがあるかもしれない。

政府債務の急激な増加によりドルの暴落を多くの著名投資家が警戒しているが、前にも述べたようにそのタイミングは必ずしも債務増加に連動するわけではない。

債務増加により経済が見かけ上上手く行っているように見えている間はドルも好調となる場合は多い。しかしそのツケはその仮面が剥がれてくる時にこそ起きる。

だとすれば、株式市場にとって喜ばしくない時期は、逆に言えば本来上がるべきだが上がっていなかった通貨(例えば日本円やスイスフラン)にスポットライトが当たる時期になる可能性がある。

ドル円のチャートは次のようになっている。

ユーロスイスフランのチャートは次のようになっている。

特にコロナを比較的少ない財政支出で切り抜けているスイスの通貨は本来もっと上がるべきだが、恐らくその上昇(ユーロスイスフランの下落)は株式市場のリスクオフと一緒になって一気に来る性質のものだろう。借金のツケが実体経済に来るのが不況のときで、そのマイナス効果は見かけ上好況が続いている時には見えないというのと同じである。

また、株式を買い持ちにしている投資家にとってはこうしたポジションを持っておくことはヘッジになると思われる。いずれにせよ色々準備が必要な半年間になりそうである。