トルコがインフレと景気後退の板挟みになっている。利下げをすれば物価高騰が止まらなくなり、利上げをすれば経済が墜落する。トルコ経済の話は日本の読者にとって身近ではないが、何故これを報じるかと言えば、アメリカ経済がそれに近い場所に差し掛かっているからである。
瀬戸際のトルコ経済
トルコ経済は危機に瀕している。コロナによる景気後退を利下げで乗り切ったはいいが、金融緩和で物価が刺激されたためにインフレは17%まで上がっており、しかも上昇トレンドの最中にある。消費者物価指数の上昇率(前年同月比)のチャートは次のようになっている。
本来ならば利上げが必要である。それで実際トルコの中央銀行は利上げをしてきた。
しかし利上げを敢行してきた中央銀行総裁のアーバル氏は3月にエルドアン大統領に解任された。
エルドアン大統領もインフレがまずいことは分かっていたが、利上げで経済が毀損されることについに耐えられなくなったのである。
そして新たに就任したカブジュオール氏は「利上げはインフレをもたらす」という特異な主張の持ち主だったが、大統領ともども当面利下げは行わないと表明していた。それでこれまで一応利下げは行われていなかった。上記のインフレ率のチャートに政策金利を重ねると次のようになる。
しかし以前の記事にこう書いた通り、禁酒や禁煙と同じでそんな主張は長く続かない。
結局エルドアン大統領の「禁酒」は数ヶ月も続かなかった。(中略)多分トルコリラは、というかトルコ経済はもう駄目だろう。
そしてエルドアン大統領は6月1日、インタビューで次のように語った。
今日、中央銀行の総裁と話した。金利を下げるというのは命令だ。7月か8月には金利は下がり始めるだろう。
やはりもう駄目だった。そして市場もエルドアン氏の禁酒を大して信じていなかった。ドルリラのチャートは次のようになっている。上方向がドル高トルコリラ安である。
今回の発言はリラにダメ押しの一撃を与えてはいるが、3月のアーバル氏更迭以来リラは一貫して下がっている。エルドアン氏が遅かれ早かれ我慢できなくなることは既定路線だったということである。
トルコのインフレ率は現在の17%から更に上昇してゆくだろう。
結論
何故この話は重要だろうか。それは、アメリカ経済が似たような水準まで来ているからである。インフレは始まっており、中央銀行はそれを見てみぬふりをしている。
先進国でインフレにならないというのは幻想である。1970年代から1980年代までアメリカでは物価高騰が実際に起こっている。その時代を知らない若者だけがインフレは起こらないという幻想を抱いている。単に中央銀行が踏みとどまるか踏みとどまらないかだけの問題なのである。