引き続き機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fを紹介していこう。今回はレイ・ダリオ氏率いる世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterのポートフォリオである。
ダリオ氏の2021年の相場観
最近あまりダリオ氏の近況について報じていなかったのでおさらいしておこう。ダリオ氏は年始に2021年の株式市場について次のように述べていた。
2021年の株式市場は2020年ほど活気のある相場にはならないだろう。
理由は何か。この時にダリオ氏が懸念していたのは、インフレによって金利が上昇し、株式市場に悪影響を及ぼすことである。最近になって株式市場はアメリカのインフレ高騰を懸念し始め、特にグロース株にとって逆風となっていることは報じた通りである。
実際、Bridgewaterのポートフォリオにはグロース株はほとんど組み込まれていなかった。この展開を予想していたのだろう。インフレを予想しながらもハイテク株に長期投資しているドラッケンミラー氏とは予想が同じでも手法が違うということである。
ダリオ氏は今年の相場を「2020年ほど活気のある相場にはならない」と表現した。ポジティブではないがそれほどネガティブでもない表現であり、この言い方はこれまでの流れを的確に言い当てていると言える。
機関投資家の米国株全体へのスタンスを見るためには米国株の買いポジションの総額の推移を見るのが1つの手だが、Bridgewaterのポジション総額は次のようになっている。
- 2021年3月末: 113億ドル
- 2020年12月末: 116億ドル
- 2020年9月末: 83億ドル
- 2020年6月末: 60億ドル
- 2020年3月末: 50億ドル
- 2019年12月末: 98億ドル
コロナでポジションを減額していた去年からは回復しているが、113億ドルというのはBridgewaterにとって大きい金額ではなく、ダリオ氏が米国株に強気の時にはこの数字は160億ドルを超えるため、強気でも弱気でもないポートフォリオといったところだろうか。言葉通りの数字となっている。
ダリオ氏の個別株ポジション
インフレが重しとなって去年ほどは上がらないというダリオ氏の相場観は今のところ当たっていると言える。投資家にとっての問題は、これからどうなるかである。
Form 13Fで開示されている個別株ポジションを見ていけば、ダリオ氏の考えていることが少し分かってくる。Bridgewaterの保有するETFを除いた個別株をポジション金額の大きいものから順に挙げると次のようになる。
- Walmart: 4.4億ドル -> 4.9億ドル
- Alibaba: 3.7億ドル -> 3.2億ドル
- P&G: 3.8億ドル -> 4.3億ドル
- Coca Cola: 2.5億ドル -> 3.0億ドル
- Johnson & Johnson: 2.3億ドル -> 2.8億ドル
- PepsiCo: 2.2億ドル -> 2.5億ドル
減額されているアリババを除けば見事にすべてが増額された配当株・バリュー株となっている。
これらの株はインフレ懸念でグロース株が下落してゆくにつれて相対的に上がってくる銘柄であると同時に、金利の影響を受ける銘柄でもある。アメリカの長期金利は次のように推移している。
その一方で、例えばWalmartのチャートは次の通りである。
年始からの長期金利上昇に反応して下落した一方で、3月に金利上昇が落ち着くと反発している。
ここがグロース株の動きとは違うところである。グロース株は現状では長期金利よりも期待インフレ率に影響を受けているので、金利上昇が落ち着いた後も下落を続けているものが多い。ダリオ氏の銘柄選択の技術である。
結論
これらのことを総合して考えるとダリオ氏の相場観はどういうものになるか。インフレはやはり2021年の懸念材料にはなる(だからグロース株投資は控えている)が、長期金利の水準自体は落ち着いてくる可能性がある(だから配当株に投資している)、といったところだろうか。
何故金利はそれほど上がらないのか。金利上昇、つまり債券が売られる懸念について、ダリオ氏は次のように述べていた。
そうなれば2021年内に、このギャップを埋めるために中央銀行が介入して債券をもっと買わなければならなくなると考えるのが合理的だ。
しかしそうなるためには株式市場が一度下がって中央銀行に催促を行う必要があるだろう。債券投資家のスコット・マイナード氏が指摘していたシナリオである。
ダリオ氏の買っているバリュー株とはそういう時にも下がりにくい銘柄である。やはりダリオ氏は株式市場にそれほど強気というわけではない。
同じく債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏を含め、強気相場が一旦調整に入ると予想する投資家が増えてきた。今後も著名投資家の動向を報じてゆきたい。