引き続きYahoo! FinanceによるDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のインタビューである。
今回取り上げるテーマはインフレと中央銀行である。莫大な現金給付などの景気刺激の結果アメリカでは物価高騰の初期症状が始まっており、筆者や多くのファンドマネージャーの予測した通りとなっている。
実現したインフレとその見通し
ガンドラック氏も未曾有の景気刺激策による経済への歪みをコロナ相場の初期から心配していたが、インフレは現実のものとなりつつある。CPI(消費者物価指数)は市場予想を上回る速度で上昇し、それが株価急落の引き金となった。
しかしガンドラック氏によればCPIに表れている物価高騰はインフレの本当の実態を表していないと言う。彼は次のように述べている。
CPIは実態を表していない。住宅価格のインフレを計算するための家主のみなし賃料(訳注:家を所有している人が賃料を払っているものと想定して算出する数値)は12ヶ月で2%の上昇となっているが、住宅価格の上昇は17%だ。
家主のみなし賃料を住宅価格で置き換えて計算すると現在のインフレ率は年間8%ということになる。
CPIは様々な品目の物価を集めて1つの指数としたものだが、その品目の1つである家主のみなし賃料の数字がおかしいとガンドラック氏は主張している。何度か取り上げたように、住宅価格は世界中でかなり上がっている。
既に上がっているCPIだが、インフレの実態はそれ以上のものであるということである。
インフレは止まるのか
しかしガンドラック氏によればそのインフレ率はまだ上がり続けるという。彼は次のように述べている。
DoubleLineにはインフレを予測するためのモデルがあり、直近数ヶ月の予想をするためにかなり役立っている。
そしてそのモデルによればインフレ率は今後数ヶ月上昇を続けるだろう。7月にピークとなるかもしれないが、もしそこからも上昇を続けるようなことがあれば、経済にとって深刻な懸念となるだろう。
インフレなどの経済指標は金融市場に大きな影響を持つが、各々のヘッジファンドにはそれを予想するための独自のノウハウを持っている。ガンドラック氏は債券の専門家なので彼のインフレ予想モデルは非常に興味深い。
そのモデルによれば、7月にピークになる「かもしれない」そうだが、この予想には筆者も頷ける。アメリカで行われた3回の現金給付について書いた記事を読んだ読者にもその意味が分かるだろう。
つまりインフレ率などの指標は現金給付によって持ち上げられており、最後に行われた3回目の現金給付の効果が7月頃には薄くなってくるだろうということである。
一方で「もしそこからも上昇を続けるようなことがあれば」という言葉の意味は、現金給付の効力が切れても物価高騰が止まらないのであればというように解釈できる。前回の記事で取り上げた箇所でガンドラック氏は、失業保険を手厚くし過ぎた結果人々は働くよりも失業保険を受け取って家でNetflixを見ていると指摘していた。
コロナ禍の莫大な景気刺激策はこうした歪みを多く生み出している。
政策による歪みがインフレを生む
働き手が減れば物価は上昇する。現金給付による単純な貨幣インフレだけではなく、こうした構造的な歪みが物価高騰を引き起こしているのだとすれば、インフレ率は7月以降も上がり続けるだろう。だからその後のインフレ率を見ておくことは投資家にとって非常に重要となるのである。
ガンドラック氏などの投資家がこうした懸念を真剣に考えているのに対して、何も考えていない人もいる。アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)のパウエル議長である。
パウエル議長はインフレは一時的なもので心配ないと言い続けている。中央銀行の話になるにつれてガンドラック氏の口調が厳しくなってゆく。
Fedは「一時的」と言うのが好きだ。Fedは実際にはインフレ率が国債の金利よりも高い時が一番満足なのだろう。彼らはその状態を目指してきた。
だから「インフレは一時的だ」ということにすることで人々を心配させないようにしているが、根拠は何なのだ? こんな未曾有の状況でそれが一時的かどうか誰に分かるだろうか。
インフレは良いものだという主張に何の根拠もなければ、インフレが一時的だという主張にも何の根拠もない。中央銀行の主張には基本的に何の根拠もないのである。
ガンドラック氏の中央銀行批判は続く。彼はリーマンショック当時にバーナンキ議長がリーマンショックの原因となったアメリカの住宅ローン危機の深刻さを甘く見た時のことを話している。
ベン・バーナンキが住宅ローン危機について完全に間違った時のことを忘れてはならない。彼はサブプライムローンだけの限定的な問題だと主張したが実際には被害はその何十倍も大きかった。
だから彼らが「インフレを一時的」だと言うとき、どうやって判断しているのかと思う。
これは判断というよりは投資家をミスリードするための洗脳のやり方なのではないか。
なかなか痛烈な批判ではないか。
こう考えるのはガンドラック氏だけではないだろうが、これまで中央銀行は基本的にすべての経済危機を見誤っている。リーマンショックもジョージ・ソロス氏などの投資家は事前に警鐘を鳴らしていたが中央銀行は聞きもしなかった。
今回のインフレについてもガンドラック氏、ドラッケンミラー氏などの優れた金融家が事前に警鐘を鳴らしているが、中央銀行は全く別の方向に突っ走っている。いつも同じことである。
好きな方向に突っ走れば良いだろう。責任を負わされるのは日用品の価格が高騰して買えなくなる国民である。しかしこれはすべて彼らがインフレ政策を支持した結果なのだから何を言うことが出来るだろうか。