アメリカの現金給付の威力を確認する

コロナ禍における経済対策の一環として日本では2020年に10万円の現金給付が行われたが、アメリカではトランプ政権時に2回、バイデン政権時に1回、合計3回の現金給付が行われている。

1度目はアメリカで全国的ロックダウンのあった2020年3月に1人あたり最大1,200ドル(約12万円)、同年12月に追加の最大600ドル、そして新政権に代わった今年の3月に最大1,400ドルが配られた。

日本の10万円に対してアメリカの現金給付の合計は最大3,200ドル(約32万円)であり、これらの資金はコロナでアメリカ経済に空いた穴を埋めるとともに物価高騰のきざしを生み出している。アメリカでは日用品や不動産の価格が上がり始めている。

しかしインフレの要因は低金利など他にもあるだろう。そこで今回はアメリカ人に送られた現金がどのように実体経済に波及しているのかを経済指標から検証してみよう。

現金給付と経済指標

先ずアメリカ国民に現金が送られたことで当然ながらアメリカ国民の収入が増えた。以下はアメリカの実質個人可処分所得のグラフである。

2020年の4月、2021年の1月、同年の3月に所得が大きく増えていることが分かる。これが現金給付の影響である。

そして収入が増えれば消費も増える。以下は実質個人消費のグラフである。

グラフが細かいが今年の1月と3月に所得のチャートと同じ2つの山が出来ているのがお分かりだろうか。一方で全国的なロックダウンとなっていた2020年4月には、現金給付は使われず消費は落ち込んだままとなっている。送金された現金はその後使われたのだろう。

こうした観点から先日報じたアメリカのGDPを見ればその意味がもう少しよく分かるだろう。

2021年1-3月期のアメリカのGDPはかなり良い数字になったが、それはGDPの構成要素である個人消費が上記のように現金給付によって底上げされた要因が大きい。

このように経済の供給能力が変わっていないかむしろ下がったにもかかわらず、需要だけが無理矢理拡大された場合、当然ながらものの価格は上昇する。消費者物価指数の上昇率(前月比年率)をもう一度掲載しよう。

最新の3月のインフレ率は7.7%と10年来の高い数字となった。

今後の資金の流れ

このインフレ率は続くのだろうか? ヒントは貯蓄率の水準にある。

貯蓄率とは可処分所得の内どれだけが消費に使われず残されたかを示す数値である。2020年4月は現金が送られたにもかかわらずロックダウンで消費が出来なかったのだから、貯蓄率は高い。その数字は徐々に下がってきたがその後の2度の現金給付で1月と3月にまた上がっている。

そして2020年4月の現金給付の影響が収まった2020年後半においても貯蓄率の水準はコロナ以前よりもかなり高くなったままだった。

つまり、アメリカ国民はロックダウンの有無にかかわらずまだまだ消費を躊躇っているということである。コロナが終息するかどうかは分からないが、人々が状況に慣れてくるにつれてこれらの資金は実際に使われてゆくことになるだろう。つまり現金給付の影響はこれからだということである。

そして最後の問いはこれである。現金給付の効果が切れればインフレも収まるのか? その答えはイエスである。しかしアメリカ経済はそれに耐えられるだろうか。アメリカのGDPはほとんど現金給付でもっているのである。株価も現金給付でもっていると言ってもいい。

現金給付の効果が剥がれる頃には「コロナはまだ終息していない」の掛け声のもと、同じような経済対策が有権者から要求されるようになるだろう。現金給付は麻薬と同じで、依存すれば依存するほど止められなくなってゆくのである。止めてしまえば経済成長も株価も台無しになるだろう。

インフレは根深い問題である。有権者と政治家の共依存が強まるほどコモディティ価格は上がってゆく。投資家は別にそれで良いのだが、国民はそれで良いのだろうか。