昨年後半から暗号通貨の価格上昇が止まらない。金融業界ではビットコインも金属や穀物などのコモディティに分類されており、コロナ禍におけるコモディティのバブル相場の頂点に暗号通貨があるからである。
かつては一部の人々だけが熱狂する資産クラスだった暗号通貨も、今や多くの著名投資家が注目するものとなった。
中でも債券投資家のスコット・マイナード氏はビットコイン価格の目標値として最大60万ドルという数字を挙げている。
現在のビットコイン価格は5万8000ドルなので、マイナード氏が正しければビットコインはここから更に10倍以上暴騰することになる。
成熟し始めるビットコイン相場
60万ドルという数字はビットコインの強気派からすれば一見歓迎すべき数字に見えるかもしれない。しかし筆者には別のように映る。ここまで本当に天井知らずで上昇してきたビットコイン相場に初めて天井が見えたとも言えるからである。
一度ビットコイン価格のチャートを確認してみよう。上記のような機関投資家の資金流入もあり大きく上昇してきたビットコイン価格だが、上昇率がやや緩やかになりつつあるように見える。
当然、これまでのビットコインの上昇相場ではこれぐらいのことは何度もあった。むしろ大きな急落もなしにここまで連続して上がってきたことの方が珍しいと言える。しかし筆者は少し別の見方をしている。上昇率の軟化はビットコイン相場が成熟してきたことを意味しているのではないか。
暗号通貨の時価総額
もう一度各種暗号通貨の時価総額上位5位を比べてみよう。そして一番上に金(ゴールド)を足してみると状況が分かりやすい。
- 金: 11兆ドル
- ビットコイン: 1兆ドル
- イーサリウム: 3306億ドル
- バイナンスコイン: 972億ドル
- XRP: 724億ドル
- テザー: 515億ドル
勘の良い読者にはお分かりだろう。マイナード氏のビットコイン10倍予想にはビットコインが金と同じ需要を獲得するとの前提が含まれている。これまで金は投資家にとってインフレ時における資金の逃避先としての役割を果たしてきたが、ビットコインは投機資産として同じ需要を満たし得るとマイナード氏を含め多くの著名投資家がみなしているのである。
一方でゴールドはビットコインにとって強力な競争相手であり、この時価総額を大きく超えてゆくことはビットコインにとっても難題である。ゴールドの時価総額はゴールドやビットコインのような「資金の逃避先」資産の需要が長年この水準であったことを意味する。
例えバブルと言えども資金需要の存在しない水準を超えて大きく上昇してゆくことは容易ではない。だからマイナード氏を含め、多くのプロの投資家はこの水準をかなり意識しているはずである。天井が意識されれば、値動きは重くなる。筆者の見方では、今の上値の重い値動きの正体はそういうものである。
ビットコイン投資はここまでなのだろうか? あと10倍も上昇余地のある資産を「ここまで」と呼ぶのは贅沢というものだが、投資家は常にいつ降りるかを考えておかなければならない。
ビットコイン投資はここまでなのだろうか。しかし暗号通貨投資家には朗報がある。この水準はビットコインの上昇余地であって、他の暗号通貨(アルトコイン)の上昇余地はまた別の話だということである。
ビットコインの天井、アルトコインの天井
こうした事情もあって筆者は少し前にビットコイン以外の暗号通貨について記事を書いておいた。
この記事では年始より上昇しているビットコインよりもアルトコインの方が更に上昇していることを示しておいた。
その後暗号通貨にも値動きがあったが、ビットコインがやや停滞する中で上がり続けるアルトコインがある。それは時価総額2位のイーサリウムである。
以下のビットコインのチャートと比べるとその勢いの差は明らかである。
ビットコイン以後の暗号通貨市場
この差は何故起こるのか。上記の記事で述べた通り、一番最初の暗号通貨であるビットコインには原始的な機能しかなく、電力消費量も莫大で既にノルウェー1国の電力消費量に相当する量となっており、仮にビットコインがゴールドに代わって投機資産トップの座を獲得することができるとしても、決済手段として世界的に使われるようになることは現実的に有り得ない。ビットコインが本当にそこまで成長すれば、世界の電力需要の半分がビットコインということになってしまう。ビットコインの熱狂的ファンはこの状況をどう説明するのか。
しかしイーサリウムなどの後発の暗号通貨は電力消費量の問題を解決した上で様々な新機能を搭載している。これらの暗号通貨は、政府が暗号通貨の禁止に動かない限り、本当に決済通貨として使われるポテンシャルを秘めている。
つまり、アルトコインには以下のリストの中でゴールドの時価総額を超えてゆく可能性があるということである。
- 金: 11兆ドル
- ビットコイン: 1兆ドル
- イーサリウム: 3306億ドル
- バイナンスコイン: 972億ドル
- XRP: 724億ドル
- テザー: 515億ドル
これを見ると、ビットコインの上昇余地は10倍だが、イーサリウムにはビットコインに代わってゴールドと同じ時価総額になるだけでまだ30倍以上の上昇余地が残されていることになる。そして投機資産としてだけでなく決済通貨として実際に使われる次世代の暗号通貨には、ゴールドの時価総額を超えて上昇するポテンシャルが存在するだろう。
ビットコインの次
これまで暗号通貨の上昇相場を支えてきた暗号通貨のファンたちにはビットコインへのこだわりがあるかもしれない。しかし現在暗号通貨市場を支配しているのは暗号通貨のファンではなく機関投資家である。彼らには暗号通貨の祖であるビットコインへの長年の愛着などはない。彼らが無理なものを無理だと認識するとき、彼らの資金は容赦なくビットコインから「次世代の暗号通貨」へと移るだろう。
それが長期的に見てもイーサリウムになるのかどうかは筆者には分からない。しかしイーサリウム以外の時価総額上位の暗号通貨が特定の企業の特定の用途に使われているものであることを考えると、「次世代の暗号通貨」の座は当面の間はイーサリウムに与えられるのではないかと筆者は考えている。
当然ながらイーサリウム以上の暗号通貨が出てきてイーサリウムを超えてゆくシナリオは考えられる。というよりは長期的にはそうなってゆくだろう。それが経済学者ハイエク氏の想定した、通貨間の競争がよりよい通貨を作ってゆく状況である。
しかし当面の間はビットコインに対するイーサリウムの優越が続きそうな気がしている。それが今回の記事の結論である。筆者がビットコインを支持してからしばらくして著名投資家がビットコインについて語り始めたように、しばらくすると著名投資家たちも同じようなことを語り始めるだろう。他の投資家と中央銀行の先を行くことが投資家の仕事なのである。投資の対象が暗号通貨であろうが金利先物であろうが同じことである。
一方で10倍予想をしたマイナード氏は短期的な暗号通貨の下落相場を予想しており、その場合はトレンドが巻き戻る可能性もある。
マイナード氏の予想が当たるにしても当たらないにしても、大きな調整を経ながら上がってきたのが暗号通貨相場である。短期的に大きな調整が起こり得るとの想定のもとで投資を行わなければならない。
しかしここ数年の長期トレンドは上に書いたようなものになるだろう。暗号通貨の上昇ポテンシャルは、大きなボラティリティを乗り越えてでも投資する価値のあるものだと筆者は考えている。