コロナ禍における過剰な景気刺激策で金融市場に資金が流入し、金属や穀物などのコモディティ価格が急騰している。中でも大きく上昇しているのが銅相場だが、その原因の1つは世界最大の輸出国チリの政治不安である。
銅の輸出
金融市場に流入した資金がコモディティ価格全体を押し上げてゆく様子はここでは去年から伝え続けているが、それぞれの銘柄には独自の要因もある。銅はそもそもどの国が輸出して世界に供給をもたらしているのだろうか。銅鉱石の輸出国上位5位は2019年のデータで次のようになっている。数字は世界シェアである。
- チリ: 31%
- ペルー: 20.5%
- オーストラリア: 7.4%
- カナダ: 4.9%
- 米国: 4%
チリとペルーという南米の国々で半分を占めている。中でも30%以上を占めるペルーの輸出量がどうなるかは銅価格に大きな影響を与えることになる。
問題はチリの政治がかなり不安定だということである。チリではピニェラ氏が2018年から大統領を務めているが、支持率は低く、度重なるデモと暴動で社会が荒れているところに新型コロナの流行が始まった形となる。
暴動の始まりは2019年の学生デモである。首都サンティアゴの地下鉄は運賃を定期的に再検討して調整する形を取っていたが、チリの通貨ペソが2019年当時下落し続けていたこともあり、輸入物価の高騰に合わせる形で運賃の値上げを決定したところ市民が反発、学生らがデモ隊を結成して地下鉄施設などに火炎瓶を投下した。
政府は非常事態宣言を発布し市街地に軍を配置して対抗したが、群衆の反発を煽る結果となり暴動は加熱、その後2021年に至るまで軍との衝突で死傷者が多数出るなど収集の付かない形となっている。
チリの暴動と銅相場
日本人の常識からはおよそ考えもつかないような事態がチリでは起きている。それがどう銅価格に影響するのだろうか? それはチリ国民の抗議手段の1つがストライキだということである。
チリでは労働組合などが労働者にストライキを呼びかけて政府や企業に言うことを聞かせるということが度々起こっている。平時でもそうだが、元々貧しい国がコロナで経済が立ち行かなくなると国民はなりふり構わなくなる。生活がかかっているからである。
今年3月には2019年の暴動の発端となったサンティアゴの地下鉄の従業員が賃上げを要求してストライキとデモを行なった。従業員の賃上げと運賃の値上げ回避は矛盾した要求であり、こちらを立てればあちらが立たない。もうどうしようもないのである。それがコロナ禍における発展途上国の実情である。
銅鉱山でもストライキの気運は高まっており、鉱山の労働者はストライキを振りかざしながら採掘企業との交渉を行なってきた。
ストライキが行われれば当然ながら産出量は低下する。産出量が低下すれば銅価格が上昇する。銅相場はその危うい状況を眺めながら価格をじりじりと上げてきたが、銅鉱山で働く労働者の組合が政府の年金政策の撤回を求めてストライキを表明したため銅相場は遂に上方向に突き抜けてしまった。
銅相場についてはコロナ以後比較的好調な中国経済の影響もある。銅の最大の輸入国は中国だからである。需要と供給の両面で銅価格は支えられているのである。
結論
勿論銅の価格上昇の背景にはコモディティ全体の長期上昇相場がある。コモディティは個人では投資をするのが難しいと思われがちだが、個人投資家でも投資をする方法があるので以下の記事を参考にしてもらいたい。
コロナ禍の過剰資金流入によるコモディティの上昇トレンドはグローバルマクロのヘッジファンドにはよく知られた投資戦略である。筆者の注目する著名投資家は大体このトレンドで儲けている。
- ドラッケンミラー氏が物価高騰を予想、米国債を空売り、コモディティを爆買い
- ガントラック氏: ドルは下落へ、コモディティは買い、ジャンク債は売り
- ジム・ロジャーズ氏: 日本は買い、コモディティはほぼ全部上がる
そしてこのトレンドはまだ半ばである。ここでは比較的初期からこのトレンドを追ってきたので、読者の役にも少しは立てたのではないか。コモディティバブルは何処まで行ってしまうだろうか。それは政治家がどれだけ資金を無駄遣いをするかにかかっている。