世界最大のヘッジファンド: 金保有を禁止した政府はビットコインも禁止する

前回に引き続きYahoo Financeによる世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のインタビューである。

金保有禁止とビットコイン保有禁止

「金保有を禁止」というタイトルを見て驚く読者はどれくらい居るだろうか。ビットコイン保有者の大半は政府がビットコインを禁止する未来は遠いもののように思えるかもしれない。実際、それは少なくともそれほど近い未来ではない。マイナード氏が予想するビットコインの目標価格に到達するまで、ビットコイン市場がそこまで大きくなるまで先進国では真剣な議論にはならないかもしれない。それまでまだ時間がある。

一方、それは本当に有り得ないことだろうか。それが今回のダリオ氏の議論のテーマである。ダリオ氏は次のように言う。

政府はかつて金の保有を禁止した。だから政府がビットコインを禁止することも十分あり得ることである。そして外貨両替も禁止されるだろう。政府は資金が外国に流出することを嫌うだろうからだ。

筆者が知りたいのは、金保有の禁止について知っている読者がどれだけ居るかである。金融の専門家ならばフランクリン・ルーズベルト氏による大統領令6102とすぐに答えるだろう。

ルーズベルト大統領と聞いて「ああ、戦時中か」と思う読者も居るかもしれない。しかしこれは戦時中の大統領令ではない。金の保有を禁止するこの大統領令が出されたのは1933年で、その原因は1929年の世界恐慌を抜け出すために行なった金融緩和がドルの価値を暴落させため、ルーズベルト大統領は人々がドルを捨ててゴールドに資金を逃がそうとした行動を罰しようとしたのである。

読者に聞きたいのだが、この行動と今の政府の行動の何が違うのだろうか? それがコロナであれ何であれ、政府はGO TOトラベルや東京オリンピックなどの資金のためなら何でもやるだろう。そしてそのつけを国民が増税かインフレのどちらかで払うのである。

アメリカではインフレが起きている。日本では増税になるだろう。日本国民はこうした完全に無駄な予算のための増税に対して文句1つ言うことがない。日本で政治家という商売をやるのはあまりに簡単である。

そしてインフレと増税から逃れようとする国民の行動も政府は遠慮なく罰してゆくだろう。日本では増税から逃れられないようにするためにマイナンバーが取り入れられた。何のために政府が個人のクレジットカードの利用状況を知る必要があるのか教えてほしいものである。

そして物価高騰から逃れようとゴールドやビットコインを買う人々に対してはそれを禁止するという手段がある。ダリオ氏はビットコインがそこから逃れられるのかと問いかける。

以下の記事でも書いた通りダリオ氏は決して暗号通貨懐疑派ではない。

今回のインタビューでも次のように言っている。

ビットコインは10年間実用性を証明している。ビットコイン自体はハッキングされていない。機能が長期間止まったこともない。人気を集めることに成功し、富の貯蓄手段としてデジタル版の現金となった。

コロナ禍における金融緩和や現金給付で諸外国では物価高騰が始まっている中、ビットコインは資金の逃避先としての需要を満たしている。ソロスファンドが暗号通貨インフラに投資をしている理由と同じ理屈であり、ガンドラック氏も同じことを言っていた。

ビットコイン禁止は既に始まっている

しかしダリオ氏と同じく、筆者も政府は通貨発行の独占権を手放そうとはしないだろうと思う。ダリオ氏は次のように言う。

通貨を発行する銀行はかつて沢山存在した。しかしイングランド銀行が最初に通貨発行の独占を宣言した。今ではすべての国が通貨発行の独占権を手放そうとしないだろう。

政府は法定通貨以外の通貨が使われたり法定通貨と競争したりすることを認めようとはしない。自分が支配できなくなるからだ。

イングランド銀行は国内の通貨発行を独占した世界初の中央銀行である。イングランド銀行は政府債務をマネタイズするために作られた。そしてそれが政府にとって便利なツールだということが証明されたので、他の国も続いたのである。

紙幣印刷があるから政府は馬鹿げた政策のための予算を積み上げることが出来る。人々がゴールドやビットコインに逃避してしまってはそれが出来なくなってしまう。そこが要点なのである。ダリオ氏は言う。

いくらかの条件が揃えば、ビットコインの禁止はあり得るだろう。ちょうどゴールドが禁止されたのと同じである。

そしていくらかの国ではビットコインはそもそも既に禁止されている。ダリオ氏は次のように続ける。

インドではまさにそれが起きている。インドでは政府がビットコインの所有を禁止しようとしている。

ビットコインの禁止は可能だろうか? インドでは既に具体的な議論になっている。自分は暗号通貨の専門家ではないが、政府の監視下に置かれている人々から聞いた話を総合すると、政府はビットコイン取引をトラッキングでき、誰が取引しているかを特定できる。

わたしの意見では、そうした政府の動きに反対してビットコインを保有し続けることは難しいだろう。

インドのケースは暗号通貨に興味のある人々には観察する価値のあるケースである。政府が何処まで暗号通貨を禁止できるのかを考える上で興味深いモデルケースとなるだろう。

ダリオ氏は自分が専門家ではないと言うが、ダリオ氏の言うことは概ね正しい。ビットコインは全取引が世界中に公開されているので何処から何処に資金が動いたかは政府でなくともすべて確認できる。

それに身分証明証を提示して取引所でビットコインを買っている人々はそもそも問題外である。彼らは現金を使っていれば特定されなかった情報をわざわざ特定できるようにしている。

但し、これはビットコイン及び技術的にビットコインと同レベルの暗号通貨についてのみ正しいことである。前にも書いたがゼロ知識証明という暗号学の技術を使えば、取引情報を世界中に開示しない暗号通貨を作ることができる。

そういう通貨がビットコインと同じレベルで普及し始めた場合、それは政府の利権にとって正真正銘の脅威となる。スイスの匿名口座がアメリカ国税庁に潰されたのと同じである。

結論

ビットコインの問題は実に根深い問題をはらんでいる。人々は税金を払うことに慣れているが、課税とは実際には権力者によるそれ以外の国民の財産の略奪を形式化したものに過ぎない。政府がわれわれに税金を請求する正当な理由は存在しない。もし存在するならば、課税を強制しなくともわれわれは喜んでそれを払うだろう。人々は少なくとも自分が欲しいと思ったものやサービスには確かにお金を払っているからである。

特に通貨発行権の問題については是非ともしっかりと考えてみてもらいたいものである。何故政府しか通貨を発行できないのか。当たり前と思われていることを疑うことからすべての知恵は始まるのである。


ハイエク – 貨幣論集