日銀の日経ETF買い入れ中止でファーストリテイリングが暴落の危機

3月19日、日銀は金融政策決定会合を開き、量的緩和やイールドカーブコントロールなど金融緩和政策の微調整を行なった。ほとんどフルに緩和をしてしまっている日銀の政策調整が市場に大きな影響を持つことはほぼなく、日銀については長らくほとんど報じていなかった。

しかし今回の政策変更に関しては少し興味深いものが含まれていた。日銀は日経平均連動ETFの買い入れを中止したのである。

日経ETF買い入れ中止

どういうことか。日銀は勿論株式ETFの買い入れ自体を中止したわけではない。株式ETFはこれまで通り年間約12兆円を上限に買い入れる。しかし声明文には以下の文章がさりげなく含まれている。

また、ETF買入れについては、今後、指数の構成銘柄が最も多いTOPIXに連動するもののみを買入れることとする。

これを読んだ投資家らは結構驚いたのではないだろうか。もしかしたらまだ読んでいない投資家もいるのではないか。

元々、日銀はTOPIXに連動するETFと日経平均に連動するETFの両方を買い入れていた。主な違いは含まれている銘柄数である。TOPIXは東証一部に上場している全銘柄(2,000社以上)が含まれている一方で、日経平均は225銘柄しか含まれていない。ニュースなどでよく取り上げられる日経平均だが、全く市場全体を表してはいないのである。

しかし日銀は日経平均ETFを買っていた。結果として日経平均に含まれている225の銘柄だけが他の銘柄よりもバリュエーションの高い状態になるという状況が続いており、しかし日経平均に含まれている企業が他の企業に比べて優良企業である保証など何処にもないので、日経平均に入っているだけで買われる今の状況は相場には大きな歪みとなっていたのだが、今回の措置でそれが解消されることとなる。

犠牲となる銘柄群

市場全体には良いことである。一方で日経平均に含まれている銘柄にとっては大きなマイナスとなる。その中でも一番大きな影響を受ける銘柄はどれか。投資をしている読者にはもうお分かりだろうが、ユニクロを有するファーストリテイリングである。

日経平均は225銘柄を均等に平均しているわけではない。上手く設計されていないために全体に占める割合が大きい銘柄もあれば小さい銘柄もあり、その中で構成率が一番大きい銘柄がファーストリテイリングである。これは投資家には有名な事実だが、ファーストリテイリング1社で実は日経平均の11%を占めている。

結果としてファーストリテイリングを操作すれば日経平均を操作できるということになり、日経平均先物を上げたり下げたりしたい仕手筋がファーストリテイリングに群がっていた。

結果としてファーストリテイリング株の需要は大きく上がり、ファーストリテイリングは実際の価値を大きく超えた価格で売買されるようになった。大して高成長の株でもないにもかかわらず、ファーストリテイリングの株価収益率は53となっている。日経平均全体の株価収益率は23である。

日銀ニュースで株価下落

当然ながら今回の日銀の決定を受け、ファーストリテイリングの株価は急落した。金曜日は6.1%安で引けている。

確かに日経平均ETFを買っているのは日銀だけではなく、ファーストリテイリングが日経平均にとって重要であることに変わりはない。しかしその一番の買い手であった日銀が、日経平均はもう買わないと宣言した。その影響は、筆者には6%のマイナスでは済まないような気がしている。

当然ながら日経平均の構成率の高い他の銘柄も影響を受けるだろう。日経平均の構成率上位10位は次の通りである。

  • ファーストリテイリング: 11%
  • ソフトバンクグループ: 7.23%
  • 東京エレクトロン: 5.09%
  • ファナック: 3.23%
  • ダイキン工業: 2.80%
  • KDDI: 2.54%
  • 信越化学工業: 2.25%
  • アドバンテスト: 2.23%
  • エムスリー: 2.20%
  • テルモ: 1.91%

一方でTOPIXの構成率の高い銘柄には逆にプラスになるだろう。日経平均に振り分けられていた資金がTOPIXに向けられるからである。TOPIXの構成率上位10位は次の通りである。

  • トヨタ自動車: 2.99%
  • ソフトバンクグループ: 2.55%
  • ソニー: 2.54%
  • キーエンス: 2.23%
  • 任天堂: 1.40%
  • 日本電産: 1.35%
  • 信越化学工業: 1.33%
  • 三菱UFJ: 1.28%
  • リクルートHD: 1.26%
  • 武田薬品工業: 1.24%

やはり大きなマイナスになるのはファーストリテイリングのようである。トヨタ自動車にはプラスになるだろう。ソフトバンクグループのように両方に含まれている銘柄もある。

これは結構大きなニュースである。また、日経平均をTOPIXで割ったNT倍率にも注目したい。日経平均がこれまで大きく注目されてきたためにNT倍率は長期の上昇トレンドにあった。しかし日銀の今回の決定でそれも変わる可能性もある。

片方を買って片方を空売りすることでNT倍率をトレードすることもできる。投資家には結構面白い投資のチャンスである。