Guggenheim Partnersのスコット・マイナード氏が1年近く上昇してきた株式市場に暗雲が立ち込めていると話している。原因は勿論インフレ懸念で金利が上昇していることである。
金利上昇と株式市場
コロナ禍における金融緩和と現金給付で莫大な資金が市場と経済に投入されたことにより、アメリカでは物価高騰の初期症状が見られていることは昨年秋から報じている通りである。
いち早く報じたこのトレンドも当時は誰も気にしていなかったが、市場もようやく気にし始めたようであり、国債市場ではインフレを懸念して金利が急上昇している。以下はアメリカの長期金利のチャートである。
非常に綺麗な上昇トレンドである。
高金利は株式市場にはネガティブである。金利が高ければ資金が株式市場から国債に流れてしまう。それが最近の株式市場の動揺の理由であり、Fed(連邦準備制度)のパウエル議長は火消しに走っている。彼によればインフレは懸念するほどではないそうである。
金利高騰で株式市場はどうなるか
しかしマイナード氏はそうは思っていない。金利高騰の結果株式市場は急落すると彼は見ている。
恐らく第2四半期から第3四半期あたりに株式市場では調整があるだろう。そして中央銀行は株式市場が15%以上下がることを許容しないだろう。
マイナード氏が引き合いに出すのは2018年の株価暴落である。
2018年12月には株式市場が突然暴落し、中央銀行は政策変更を余儀なくされた。そういうシナリオに今の相場は向かっている。遠からずそういう種類の調整があるだろう。今年中に株価は下落し、中央銀行は対応を強いられる。
2018年の暴落についてご存じない読者は当時の記事を参考にしてほしい。
パウエル議長は今は心配いらない、特別な対応は必要ないと言っているが、マイナード氏はそう言っている内に株式市場が癇癪を起こして追加緩和の催促を始めると予想している。しかし既に政策金利はゼロであり、量的緩和も行なっている状態でどういう追加緩和が出来るだろうか? マイナード氏は次のように続ける。
中央銀行はイールドカーブコントロールを始めるだろう。例えば10年物国債の金利に上限を定める。いくらかは分からないが、1.5%か2%か。1940年代には2.25%だった。そうすれば金利が上限に近づくと中央銀行が介入する前に市場が国債を買おうとする。そうするとバランスシートの膨張をいくらか和らげられる。
株価が下落し、中央銀行は緩和を余儀なくされる。その後どうなるか? マイナード氏は次のように予想している。
株価は最終的には上昇するだろう。
どんどん効果が薄くなってゆく金融緩和
以上がマイナード氏の2021年の株価予想である。しかし中期的な株価推移よりも重要なことがこの話の中には含まれている。金融緩和の効力が明らかに弱まっているということである。
2018年の暴落を経験した読者ならお分かりだろう。当時アメリカはバランスシートを縮小する量的引き締めと利上げを同時に行なっており、それが市場を動揺させた。しかし今回はゼロ金利の状態で量的緩和を行なっている最中であるにもかかわらず市場は荒れ始めている。
この状況についてマイナード氏は次のように述べる。
中央銀行は資産買い入れを減らしたり利上げをする、あるいはそういうことを考えているということさえ示唆してもいない。にもかかわらず株式市場は既に動揺している。では中央銀行が実際に「これから資産買い入れを減らします」と宣言したらどうなるだろうか?
ゼロ金利に近づくにつれ金融緩和は効力を失ってゆく。金利が高い時には株が暴落すれば1%利下げできたものが低金利下では0.25%ずつの利下げしか出来なくなり、遂にはゼロ金利となる。量的緩和もアベノミクスの頃は大きな株価上昇要因だったものが、いつの間にか市場を辛うじて支えるだけのものになり、更に大きな緩和をしてより小さな効果を得なければならない状況になってゆく。そしてインフレと通貨暴落に至る。それがBridgewaterのレイ・ダリオ氏の相場観である。
マイナード氏の分析を通して先進国経済が終わりの時に近づいているのが分かる。しかし本当に取り返しが付かなくなるのはインフレが制御不能になるもう少し先の話だろう。