インフレを暗示する最新の米雇用統計、株価暴落か物価高騰かの二択に

最近の記事ではデフレからインフレへの転換という大トレンドに関する内容が多かったので、今回は足元の経済状況からそのトレンドへ向かっていることを確認してゆく。

改善するもコロナ前には遠い労働市場

3月5日、アメリカの2月分の雇用統計が発表された。非農業部門労働者数は前月比379,000人増となり、市場予想の182,000人を大きく上回った。失業率も6.2%と前月の6.3%から低下している。

失業率の5年チャートを見ると次のようになる。

失業率は着実に低下を続けているがコロナ前の水準からはかなり遠い。過去に失業率が6.2%だったのは2014年のことであり、そこからコロナ前の2020年1月の失業率に低下するまで5年以上掛かっていることを考えると、6.2%からコロナ前の状況に戻るには少なく見積もっても数年かかると考えた方が良いだろう。

ジレンマに陥るパウエル議長

この「着実に改善している」が「いまだ非常に高い」失業率はFed(連邦準備制度)のパウエル議長にとってかなり難しいジレンマとなるだろう。何故か? 労働市場は素早く改善していることはインフレの原因となるが、失業率がいまだ高いために金融引き締めができないからである。

アメリカの中央銀行は完全雇用を明示的な目的としている。パウエル議長もつい最近、労働市場が多少改善したからといって緩和をやめることはないと主張していた。

完全雇用が目的ということは6.2%の失業率が多少下がったからといって緩和を止めることはできないということである。しかし既にアメリカでは物価高騰の初期症状が表れている状況で少なくとも数年も同じような緩和を続ければ、例えば3年後にはアメリカのインフレ率はかなり取り返しの付かないところまで上がっているだろう。

物価高騰か株価暴落か

パウエル議長は緩和を続けて物価を高騰させるかインフレを退治するために緩和を止めて株価を暴落させるかの二者択一を迫られることになるだろう。ここ最近株式相場が多少荒れているのはそれが理由である。

しかし本当の二者択一に迫られるのはもう少し先だろう。今の市場の多少の動揺は将来の暴落を予感したわずかな余震のようなものに過ぎない。パウエル議長は現時点ではインフレを本気で心配しておらず、放置できないところまで株価が下落すれば躊躇なく金利を押し下げ、株式市場を持ち上げるだろうからである。

しかし繰り返しになるが、インフレ率が取り返しの付かないところまで上がれば容易に緩和はできなくなる。緩和すればインフレが加速してしまう。そうなればパウエル議長は物価高騰か株価暴落かどちらかを選ばなければならなくなるだろう。

結論

その道筋は10km先まで見える人間には今既に見えているが、3mしか見えないパウエル議長には見えていない。彼は2018年の市場暴落と同じ過ちをまたしても繰り返すだろう。

しかし既に見えている将来の危機を察し、これまでのインフレ政策から撤退し始めている中央銀行が1つある。イングランド銀行である。

何事も逃げ足の早い人間から逃げ始める。日米欧はいまだインフレ主義に固執している。実は何十年も前からこの状況を予想していた人物も居たのだが、ケインズ経済学に毒された現代の経済学者や有権者が耳を傾けることはなかった。

経済学者ハイエク氏の著書を今こそ読み返すべきなのである。


貨幣論集