株式市場が少し荒れている。株価下落の原因は米国市場で金利が上昇していることである。
そして債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏はこのトレンドが一過性のものではないとTwitterで指摘している。
金利上昇の原因
今年に入って金利が急騰しており、金利高は株式市場にネガティブな影響を与えるため多くの投資家が注目している。
これまで金利が下がり続けてきたことで株式市場が支えられてきたということが定説だが、そこでガンドラック氏は次のようにツイートする。
引っ掛け問題。30年物米国債は過去4年半でどれだけ下がった? その通り、実は上がっている。
金利は実は長期で上がっていたのだろうか? 中央銀行が完全にコントロール出来るのは短期側の金利であり、そちらは間違いなく低下傾向にある。ではその反対にある超長期国債の金利はどうなっているだろうか? 30年物国債の金利の5年チャートを見てみよう。
直近の金利高騰を除けば一応下落トレンドにあるように見える。ガンドラック氏の4年半というのは一時的に金利が下がった2016年7月頃と比べてということだろうか。「上がっている」と言うための少し恣意的な期間選択だが、超長期国債の金利は実は長らく横ばいだということは言えるだろう。
ガンドラック氏は最近の金利上昇の裏にはコロナ禍の財政出動があると見ている。彼は次のようにツイートする。
米国の赤字国債は毎秒100万ドルのスピードで増え続けている。
そしてGDP統計を見ると貿易赤字も爆発的に増え続けているということを前回の記事で報じておいた。
アメリカにはお金がないのである。
金利上昇は続くか
最初に書いた通り金利高騰は株式市場にとってマイナスとなるため、この金利高トレンドが続くかどうかが投資家にとって問題となる。ガンドラック氏は次のように説明する。
最初は数ヶ月前に30年物国債の金利が上がり始めた。次は10年物だった。今では7年物が上がった。この事実は5年物国債の金利を急騰させるだろう。これはレジームチェンジだ。
レジームチェンジとはすなわちこの金利高が一過性のものではないということである。ガンドラック氏はこの影響が株式市場に及ぶと予想している。
米国の主要な3つの株価指数(訳注:ダウ、NASDAQ、S&P 500)が最後に一緒に上昇した日はいつだっただろうか。レジームチェンジが進んでいる。
そして極めつけはこのツイートである。
1987年10月前半のマーティン・ツバイクのようだ。
マーティン・ツバイク氏は『ツバイク、ウォール街を行く』など投資家向けの入門書で知られ、ブラックマンデーと呼ばれる1987年10月19日の株式市場暴落を予期した有名な株式アナリストである。この事実を重ねてガンドラック氏のツイートを解読すると、ガンドラック氏はブラックマンデー的な株式市場の暴落をほのめかしているということになる。
コロナ相場とブラックマンデー
現在の相場は1987年のブラックマンデーに似ているだろうか。そもそもブラックマンデーにおける株価暴落の原因は何だったのか。お忘れの読者は以下の記事で復習してほしい。
1つの違いは、現在の金融市場はまだ詰んでいないということである。ブラックマンデーでは市場では株価下落は唯一可能なシナリオだった。上記の記事を読んでもらえば分かるが逃げ道はなかったのである。中央銀行による緩和はブラックマンデーでは封じられていた。
現在の株式市場はまだ逃げ道がある。中央銀行が本気で長期金利の高騰を抑え込もうと思えば、まだ抑え込むことが出来るからである。インフレが本当に加速してしまった後では簡単には低金利政策はできなくなる。インフレが加速してしまうからである。しかし幸か不幸かインフレはまだ許容範囲を超えていない。市場は「まだ」詰んでいない。
一方で株式市場には格好の下落材料がある。バイデン政権の1.9兆ドルのインフラ投資が議会を通ってしまったことである。
株式市場にとってプラスになる景気刺激が議会を通って何が悪いのかと思うかもしれないが、金融市場にとって材料出尽くしは株価下落の原因となる。
「噂で買って事実で売る」である。株式市場は1.9兆ドルのインフラ投資を消化してしまったので、当分大きな上げ材料がない。米国株はこれまで金利低下と財政出動を頼りに上がってきた。
このまま高金利が続けば株式市場は「インフレにおける下落相場」を経験するかもしれない。レイ・ダリオ氏の言う通り、インフレは株式にとって良いことばかりではない。
コモディティ市場も影響を受けて下がるかもしれない。しかしインフレが許す限り、株価が下がれば中央銀行は金利を無理矢理にでも押し下げるだろう。長期的にはインフレ相場はインフレが手遅れになるまで続く。中央銀行家は何事も手遅れになるまで動かないからである。
ツバイク氏は2013年に亡くなったが、もし生きていたら今の相場に何と言うだろうか。少なくとも言えるのは、1.9兆ドルは株式市場にとっては既に過去のものだが、物価にとってはこれから注ぎ込まれる資金だということである。
ツバイク、ウォール街を行く