ギリシャ問題は痛み分けで債権団と合意へ: 外交的にはギリシャ勝利も経済の先行きは暗い

7月9日、ギリシャ政府は債権団に対し、国民投票後初めての新提案を提出した。ドイツなど債権団側は内容の審査にあたっている。

国民投票前の債権団の要求は上記の記事に書いたが、ギリシャ側の新提案はこれらのほとんどを受け入れる内容のようである。ギリシャ政府の譲歩には、観光業に配慮した島部の優遇税率撤廃、民営化、年金改革、国防費削減などが含まれる。

これらへの見返りとして、ギリシャ側は2018年6月までの資金支援、基礎的財政収支の黒字化の見直し、債務再編などを要求している。要するに、増税を行う代わりに支出の制限も辞めるという、両者痛み分けの様相となったわけである。

フランスは合意に意欲的、ドイツは債務再編を拒否

先ず、フランスはギリシャの合意と積極的である。ロイターによれば、デジール欧州問題担当相やマクロン経済相が賛成を表明し、加盟国にギリシャとの合意を呼びかけている。オランド大統領も新提案は「真剣で信頼が置ける」とし、ギリシャは「ユーロ圏に残留する意思を示した」とした。

一方でドイツの反応は複雑である。先ず、債務再編についてはメルケル首相、ショイブレ財務相がともに否定的な考えを示した。ラトビアのストラウユマ首相も債務再編に反対する意を示した。EUの規則に反するということを理由にしているが、これについては抜け道はあるとの指摘もある。

今週中にも同意へ

しかしながら、これまでとは違い、債務再編には難色を示しているドイツ側も、全面的に否定という訳でもなさそうであり、フランスが賛成に回った以上、ギリシャと合意できずにユーロ圏離脱ということになれば、ドイツだけに責任が行くことになり、ドイツも合意に向けて前向きになるほかないだろう。

債務再編が通るかどうかは微妙だが、その他の点については通るのではないかと思う。基礎的財政収支の黒字化見直しは、ギリシャ国民が緊縮財政についてNoと言った民意を反映するものであり、ギリシャ側としても譲歩を得られたことになる。

ギリシャ経済は回復するのか?

この合意でギリシャの経済が回復してゆくかについては、個人的にはあまり肯定的ではない。外交的にはギリシャ側の勝利と言えるだろう。黒字目標が見直されれば、増税を行っても公共投資で国民に還元すれば良いのであり、新提案はギリシャ側が各論で譲歩し総論で譲歩を得る形となるから、全体としてはギリシャに有利な合意となる。

しかしながら、ギリシャの債務が増えてゆく構図は変わらない。ユーロは量的緩和のあともギリシャには高すぎ、通貨高による貿易赤字は財政赤字をそのまま拡大する。詳細は以下の記事を参照してほしいが、ギリシャは今後も赤字を拡大し、その度に緊縮財政を押し付けられてゆくだろう。

ドイツの政治家は最後まで自国民の感情論に寄り添い続ける形となった。国民が経済学を理解しないときには、政治家が国民の要求を修正して実行しなければならないが、ドイツの政治家は「借金が増えれば財政切り詰めを」という素人の経済学を貫き続けた。

国民も政治家も経済学を理解しないのならば、それを実行するのは投資家である。いずれその歪みを金融市場を通し是正するタイミングが来る。今回はギリシャが再び生命維持装置に繋がれることで解決しそうだが、ドイツはいずれ選択肢を突きつけられるだろう。ユーロ圏の崩壊か、ユーロ圏共通債の発行である。

その引き金を引くのは、再びギリシャである可能性が高い。ギリシャ空売りの時を待とう。今の問題は、ギリシャでも中国でもなく、量的緩和相場の行く末である。