新型コロナによる現金給付などの経済政策のため、経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の通貨崩壊・インフレ論を持ち出すまでもなく著名投資家のなかではインフレへの警戒が広がっているが、ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを長年率いたスタンレー・ドラッケンミラー氏もその列に加わったようである。
ドラッケンミラー氏もインフレ予想
ドラッケンミラー氏がGoldman Sachsのインタビューでやはりインフレを予想している。その理由は新型コロナによる景気後退で政府が行なった現金給付などの経済政策である。彼は次のように述べている。
景気刺激策がどれほど大きかったって? 3ヶ月で増えた政府債務の量は過去5回の景気後退で増えた分を合わせた額よりも大きい。
現代人には初耳かもしれないが、紙幣印刷とはタダでお金が降ってくることではない。限界を超えて紙幣をばら撒けば物価が上昇し始め、10万円余分にもらえる代わりに20万円余分に支払わなければならなくなる。
しかしこれは投資家には、特にドラッケンミラー氏のようなグローバルマクロの投資家にはかつてない規模のチャンスである。資金が大きく動くということだからである。
これまで長らく起こらなかったインフレという歴史的転換点を前にしてドラッケンミラー氏はどう投資するのだろうか。彼は次のように述べている。
わたしはインフレが中央銀行が考えているよりも上昇すると踏んでいる。
それで長期側の国債を空売りしている。でも中央銀行が正気を失えばこのポジションは実らないかもしれない。だからコモディティを大量に保有している。もし中央銀行が債券価格を買い支えて金利上昇を抑えれば、コモディティのポジションが利益を出してくれるだろう。
国債の空売りとは金利上昇に賭けているということである。金利上昇は債券価格の下落を意味するからである。
事実、アメリカの長期金利は上昇している。コロナで一時期0.4%まで下がった金利は再び1%を超えてきた。
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しかしドラッケンミラー氏は同時に中央銀行がこの金利を抑え込んでくる可能性を懸念している。低金利を演出することで中央銀行は株式市場を昨年3月の株安から救ったため、金利が上がってしまうと株式市場が揺らいでくる。だから中央銀行は金利上昇を許さないだろうということである。
そこでドラッケンミラー氏は「大量に」コモディティを買っているという。物価上昇となれば先ずは金融市場で取引できる貴金属や農作物が上がるのは当然である。
ドラッケンミラー氏は特定の銘柄には言及しなかったが、金融市場に流入した資金のせいでコモディティ市場は一様に好況となっている。以下は金価格のチャートである。
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以下は銅価格のチャートである。
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コロナで一時期はマイナスになった原油価格も持ち直してきた。
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今見返すと面白いチャートである。
一般人の暮らしにより近い農作物も見てみよう。以下は大豆の価格チャートである。
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以下はコーンのチャートである。
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金融市場におけるこうしたコモディティ価格の高騰はいずれ人々の食卓へと影響してくるだろう。ちなみにこのコモディティ高のトレンドについては昨年秋にいち早く紹介しており、乗れた人もいるだろう。
膨大な資金流入を考えれば当然の結果である。そしてドラッケンミラー氏はまだまだこれからだと言っている。
結論
インフレシナリオについては既に多くの著名投資家が賛同しているが、世界屈指のマクロトレーダーであるドラッケンミラー氏もそこに加わった形となる。
そして忘れてはならないのが、ビットコインもまた(通貨でなければ)コモディティであるということである。ビットコイン価格のチャートを再掲したい。
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読者もお気づきの通り、最近の記事では株式や債券の話よりも通貨発行の話ばかりしているが、昨年秋にコモディティのトレンドを無意味にしたのではないように、今ビットコインやハイエク氏の通貨発行自由化論の話をしているのも無意味にしているのではないということである。早く気付いた人はそのトレンドに乗ることが出来るだろう。著名投資家の何人かは既に気付き始めている。
貨幣論集