ここ数日話題になっているが、アメリカの株式市場でGamestop (NYSE:GME)の株式が20ドルから500ドル近くまで暴騰し、そこから再び100ドル以下まで暴落した。この銘柄にはヘッジファンドなどが空売りを浴びせていたとされており、詳しくは後述するがこの空売りが踏み上げにあったことでヘッジファンドが大損したのである。
そもそもGamestopとはどんな会社か?
この騒動でGamestop株は世界的に有名になった。チャートは次のようになっている。
よく上がったものだと関心してしまう。しかしGamestopの名前は有名になったが、この会社がどういう会社かを読者はご存知だろうか。上記のように株価が急激に上がるような高成長の会社なのだろうか。
Gamestopは、アメリカのゲーム販売会社である。販売会社といってもAmazon.comのようなものではなく、各地に実店舗を置いて営業している小売の会社である。店舗はこんな感じである。
とてもではないが20ドルから500ドルまで上がるような株ではない。では何故500ドル近くまで急騰したのか? 著名投資家のジェフリー・ガンドラック氏がGamestop株についてFox Businessでインタビューされているので、彼の解説を引用してみよう。
ヘッジファンドがGamestop株を分析して、売上高や利益などのファンダメンタルズが貧弱だと判断した。そこまではいい。彼らはそれでGamestop株を空売りした。しかし空売りもやりすぎると話がおかしくなる。
基本的な話だが、空売りとは株価が下落したときに利益を得られる取引で、まず持っていない株を保有者から借り、借りた株を市場で売却することで市場価格に基づいた現金を得る。それから株価が下がったところで、売却で得た現金よりも少ないコストで買い戻して株を返却すると、現金の差額が利益として手に入るという算段である。
ヘッジファンドなど市場における高い株価が会社の実態に見合わないものだと判断すると、その後の値下がりを想定して空売りを行う。ここまでは普通の取引である。
では何故空売りはやりすぎると話がおかしくなるのか。市場に大量の空売りが存在するということは、後でその株を買い戻さなければならない人が大量に存在するということである。彼らは基本的に値下がりを想定して空売りをしているため、株価が上昇した場合に困ったことになる。
空売りの踏み上げ
空売りをしている投資家は株価が上昇すると損をする。Gamestop株のように損切りをしなければならない水準まで株価が上昇すると空売りしていた投資家は損切りを迫られるわけだが、売り方が損切りをするということは株を買い戻すということである。売り方の買い戻しが更に株価を上昇させ、他の売り方も損切りを余儀なくされる。これが芋づる式に続いてヘッジファンドらは価値のない株をとんでもない高値で買い戻さなければなくなったのである。
しかし空売りも通常の量であればこのようにはならない。Gamestop株の空売り残高がどれほどの量になっていたかについてガンドラック氏は説明している。
Gamestopの場合、発行済み株式の140%の空売りが存在した。
140%も空売りが存在する場合、どんな理由であれこの株を買いたいという人が押し寄せてくると問題が生じる。
発行済み株式の140%の空売りとは途方もない量である。投資家としてはそういう株を踏み上げてみたくなる気持ちは分からなくもない。当然ながらGamestop株は上がった。途方もなく上がったのである。
しかし何故そもそも発行株数以上の空売りが可能なのかについては少し説明が必要かもしれない。空売りには2種類あり、実際に株を借りて空売りする通常の空売りと、実際には借りていない株を空売りする空売りでこちらは英語でNaked shorting(直訳で裸の空売り)と呼ばれる。140%とはNaked shortingも含めて可能になった数字だろう。
株価暴騰の本当の理由
しかしガンドラック氏によればGamestop株が急騰した理由は空売り残高だけではないという。彼は次のように述べている。
しかも今回は政府の政策のために、政府がばら撒いたお金で投資を、というよりは投機をしてみようという人々が大量にいた。
コロナによりアメリカや日本では現金給付が行われた。ガンドラック氏は以前こうした刺激策を痛烈に批判している。
Gamestop株の騒動も現金給付がもたらした馬鹿騒ぎの1つだとガンドラック氏は見ているのである。彼はこう続けている。
210万人が掲示板で結託して200億ドルの買い圧力を生み出してヘッジファンドを血祭りにあげた。買い圧力が生じた理由は政府の景気刺激策にある。それが究極的な理由だ。
それで全発行株式以上の株数を空売りしていたヘッジファンドは逃げるために株を買い戻さなければならなくなった。
この騒動は短期間でドラマチックに起こったために世間の注目を集めたが、市場ではこうした奇妙なことが他にもいくらでも起きている。
Gamestop株は政府の現金給付が引き起こした現象の1つに過ぎないというわけである。
一方で、自身もファンドマネージャーであるガンドラック氏はヘッジファンドの側を擁護しているわけでもない。世間では空売りに対する無理解から今回の件について色々なことが言われているが、彼は次のように述べている。
ヘッジファンドに対する同情とかそういうものはない。
ヘッジファンドが金を失って何が悪いんだ? ヘッジファンドが市場から退場させられて何が悪いというんだ。それがヘッジファンドのビジネスモデルだ。
すべてのヘッジファンドがそういうわけではないが、ヘッジファンドは1つの方向に膨大なリスクを取り、多くのヘッジファンドマネージャーがそうなったように大金持ちになるか、あるいは賭けが間違っていれば破産する。彼らはそう理解しているだろうし、そう理解しているべきだ。
勝者は儲け、敗者は退場する。そういう世界なのである。