レイ・ダリオ氏の運用する世界最大のヘッジファンドBridgewaterの動向は定期的に報じているが、Reutersによれば2020年のパフォーマンスが出たようであり、121億ドル(日本円で1兆円以上)の大赤字となったようである。
2020年のBridgewater
昨年のBridgewaterの動向を振り返ってみよう。2020年1月、創業者のダリオ氏はダボスでこう発言していた。当時、株価は力強く上昇していた。
誰もが乗り遅れたため、誰もが乗ろうとしている。
現金はゴミだ。現金から離れるべきだ。いまだ多くの資金が現金のままになっている。
彼はかなり過激な言葉で現金を何かに投資するべきだと主張していた。1月後半、新型コロナウィルスは中国で蔓延していたが、世界中に広がってはいなかった。
しかしその後、新型コロナがヨーロッパに広がると株式市場は暴落した。ダリオ氏の発言から1ヶ月後のことである。
ダリオ氏は市場がまだ暴落していなかった2月初旬の時点で新型コロナウィルスのリスクを査定していた。
当時、ダリオ氏は「一般的にはこうした一生に一度のレベルの災害はまず最初に過小評価され、そして状況が進むにつれて過大評価される」と述べるなど示唆に富んだコメントもした一方で、SARSなどのケースでは香港株は下落したが世界の株式市場は下落しなかったことなどを挙げて米国株や欧州株へのリスクを過小評価した。わたしはこう付け足している。
しかし今回の感染は中国本土だけのことに収まるだろうか。過去の例との大きな違いは、今や中国人観光客は裕福になり何処にでも観光に行くということである。
結果としてダリオ氏は逃げ遅れたのだろう。相場が下落した3月半ばにはダリオ氏が20%の損失を負ったというニュースが流れてきた。
その後、読者も知っての通り株価は上昇したが、ダリオ氏は株式を買っていない様子だった。
それで上げ相場でも下げ相場での損失を取り戻すことができなかったのである。
結論
今回報道されている121億ドルという金額は1,000億ドル程度とされているBridgewaterの運用資産から見れば10%と少しということになるため、20%の損失を負ったとされていた3月からは少し持ち直したのだろうが、年間損益をプラスにして2020年を終えることは出来なかったようである。
ちなみにダリオ氏は2018年1月のダボスでも「現金保有は馬鹿を見る」発言をしてその後株価が急落する事態を経験している。
ダリオ氏は間違いなく世界随一のアナリストだが、トレーディング技術にはアナリストとしての技量ほど優れていないと思わせることがままある。運用資産も通算利益もダリオ氏が世界一ではあるのだが、やはりトレーダーとしてはジョージ・ソロス氏の右に出る人物はいないのかもしれない。