新型コロナウィルスの流行で世界的なロックダウンのあった4月から既に半年が過ぎようとしている。世界経済と株式市場は4月の急激な落ち込みからコロナ前の水準に向けて反発を続けていたが、米国経済には反発鈍化の兆しが見られる。
新型コロナ後の個人消費
10月の始めになったので第3四半期(7月から9月)のGDPがあと1ヶ月ほどで公表されるということにはなるが、例によってGDPの一部である個人消費は月次データが先に公開されている。インフレ率を差し引いた実質の個人消費のチャート(前年同月比)は次のようになっている。
大きな谷となっている部分がアメリカがほぼ全面的にロックダウンしていた4月である。その後アメリカ経済は回復しつつあったが、果たしてコロナ後の水準まで戻るのかどうかということが投資家や経済学者の注目の的となっていた。
その後個人消費は6月までは急反発を続けたように見える。しかしチャートを見れば分かるが、その後7月、8月となるにつれて成長率が明らかに鈍化している。
経済成長率はどうなるだろうか? 今年のアメリカのGDPがマイナス5%かそれ以上の景気後退となることは既に間違いない。しかし問題はその後実体経済は急速な回復を遂げるのか、回復は緩慢なものになるのか、あるいは更なる景気後退が待ち受けているのかである。
要するに2021年がどうなるのかということが投資家にとって重要なのである。その見通しを占うためには個人消費などのデータを逐次見てゆくしかないが、このチャートの鈍化を見る限りアメリカ経済はかなり苦戦しているように見える。
鈍化しないインフレ率
一方でアメリカ経済にとっては悪いニュースがもう1つある。個人消費が鈍化しているにもかかわらず、インフレ率が鈍化していないことである。同じ期間のインフレ率のチャートは次のようになっている。
明らかに個人消費よりも急勾配な上がり方をしている。個人消費のチャートと並べてみればよく分かる。
スタグフレーションの到来か
読者には周知の通り、ここでは連日Bridgewaterのレイ・ダリオ氏の相場観を紹介してきた。
ダリオ氏はコロナ後の中央銀行による紙幣印刷と現金給付が物価の高騰とドルの暴落を引き起こすのではないかと心配している。
世界有数のエコノミストであるダリオ氏の見解を筆者は興味深く眺めてはいたが、どれほど現実味のある話なのかについてはある程度距離を置いてきた。
しかし今回の個人消費とインフレ率の月次データは筆者に初めて現実的な危機感を覚えさせたと言える。この2つのチャートの方向性の違いはインフレの気配に過ぎないが、しかし政府が大量に現金をばら撒いている状況でこういう気配が見え始めたという事実は投資家にとってかなり真剣に受け止めなければならないことだろう。
ダリオ氏はインフレとドルの下落がアメリカそのものの凋落を引き起こすと言っている。コロナによって世界が変わる日が本当に来るのかもしれない。