少し遅くなったが、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fを取り上げていきたい。まずはジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementからである。
米国株の流れとソロス氏のポジション
まず米国株のこれまでの流れを纏めておこう。2020年の株式市場は新型コロナウィルスの世界的流行を受け2月に下落を開始したが、3月末の第1波流行ピークを大底として反発、その後は上昇に転じている。
前回のForm 13Fは丁度市場の底値にあたる3月末で、ソロス氏を含め多くのファンドマネージャーは米国株の買いポジションを最小限まで縮小していた。
しかし今回の開示(6月末のポートフォリオ)では買いポジションが増えている。ソロス氏のこれまでの買いポジションの総額の推移を並べてみよう。
- 2019年3月: 43億ドル
- 2019年6月: 43億ドル
- 2019年9月: 36億ドル
- 2019年12月: 31億ドル
- 2020年3月: 20億ドル
- 2020年6月: 45億ドル
前回に比べて買いが増えている。ただ、ソロス氏の買いポジションは2018年の世界同時株安以来そもそも消極的なものとなっており、ソロス氏が本気で株を買うときには買いポジションは100億ドルを大きく超えるため、それでも小さいポジションではあるのだが、3月末の20億ドルからは回復している。株価をもう一度見てみると、底値で買いを縮小して反発してから買い増したことになるため、ソロス氏らしくないトレードということにはなる。
個別銘柄
では個別銘柄はどうなっているだろうか。ポジションの大きい順で並べると次のようになる。
- Liberty Broadband (LBRDK): 7億ドル
- iShares Russell 2000 ETF (IWM)のプット: 株式5億ドル分
- 公益株ETF (XLU): 2億ドル
- 投資適格社債ETF (LQD): 1.9億ドル
- 短期社債ETF (IGSB): 1.6億ドル
まず注目してほしいのが2番目の小型株指数ETFがプット・オプションの買いであることである。形式的には買いになるのでForm 13Fにも掲載されるが、プット・オプションは株価が下落すれば利益が出るポジションであり、これがポジション総額の45億ドルに含まれているため、実質的にはソロス氏の米国株買いポジションは35億ドル程度ということになる。
1番目のLiberty Broadbandはソロス氏がもう何年も持ち続けているインターネット関連株である。
興味深いのは3番目以降で、まず3番目は水道や電力などライフラインに関連する公益株のETFで、配当が高いため株式の中では債券に近く、金利低下で利益を得る銘柄である。そして4番目と5番目は社債そのものであり、金利低下で価格上昇となる。つまり、ソロス氏は金利低下を予想しているということになる。
市場ではインフレ率上昇が懸念されており、インフレ率上昇は通常は金利上昇を意味するが、ソロス氏は中央銀行がそれを無理やり抑え込むと考えているのかもしれない。米国の金利はかなり下がったが、それでもヨーロッパや日本に比べると下落余地がまだあり、米国の金利も日本やヨーロッパのようなゼロあるいはマイナスの金利になると想定するならば、ソロス氏のように公益株や社債を買うことも考えられるだろう。