ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げた著名投資家ジム・ロジャーズ氏がビットコインを勧めない理由を説明している。結論だけ見ればありきたりだが、その理由が面白かったのでここで紹介したい。
ロジャーズ氏の論じる暗号通貨
紹介するのは週刊朝日によるロジャーズ氏のインタビューである。インタビューはありきたりな結論から始まる。
私は、ビットコインに代表される仮想通貨(暗号資産)は、いずれ衰退し、すべてがゼロになるだろうと考えている。
しかしロジャーズ氏がそう考える理由はありきたりではない。
ロジャーズ氏は何故暗号通貨を買うことを勧めないのだろうか? その理由は「暗号通貨は法定貨幣とは違って政府の保証がないから」などという馬鹿げたものではない。米ドルにも日本円にも「保証」などない。仮にその価値が暴落しても(あるいは政府がそれを故意に暴落させても)政府は何も保証してくれはしない。
かつては紙幣は金や銀などと交換することができた。しかし現在流通しているドルや円は政府が何とも交換することのない不換紙幣である。「何もしない」ということが不換貨幣のそもそもの意味である。保証も何もあるはずがない。政府は逆に紙幣印刷でそれを暴落させることはするだろう。
法定通貨が政府の「信用」で成り立っていると主張する人々もいるがこれも完全な間違いである。信用とは基本的に将来何かしてくれるかどうかという意味である。したがって紙幣における信用とは「紙幣を持っていけば政府が何か(例えばゴールド)と交換してくれる」信用があるという意味であり、何とも交換してはくれない不換紙幣にはそもそも信用という概念さえ存在しない。
円やドルはファンダメンタルズで考えれば金本位制を廃止した時点で価値がゼロになっていなければおかしいのである。(あるいは紙としての価値は残るだろう。)現在の法定通貨は信用ではなく、単に完全なバブルによって成り立っている。
法定通貨はバブルか?
ドルが金と交換できなくなってからしばらくになる。以下の記事では金本位制が廃止された瞬間のウォール街の様子をレイ・ダリオ氏が振り返っていた。
それ以来法定通貨は単にバブルである。そう考えていたのが筆者の基本的なスタンスだが、ロジャーズ氏はもう一歩踏み込んで面白い説明をしている。
ロジャーズ氏は「法定通貨」というものの歴史を説明している。
これは、マネーの歴史をひもとけばわかることだ。わずか100年前までは、私たちは自分たちの好きなものをマネーとして使うことができた。コインでも、金でも、銀でも、貝殻でもよかった。
また、市井の銀行はそれぞれ自分の紙幣を発行していた。銀行とはもともとゴールドなどを預ける倉庫のようなものであり、紙幣を渡せば銀行からゴールドを取り出せるというのが紙幣の存在意義だったのである。
しかしその状況も一変する。この「紙幣発行」ビジネスがイギリスで法律によって1社独占の状態となったのである。
ところが、1930年代半ばの英国で、イングランド銀行が「これからは我々のマネー以外をマネーとして使ったら、それは反逆行為だ」と言いだした。反逆行為とは「死刑にする」という意味だ。だから、誰もイングランド銀行が発行するマネー以外を使うことをやめてしまった。
そうして日本では日本円を、アメリカでは米ドルを、イギリスでは英ポンドを使うようになった。「ゴールドを引き出せる」という本来の約束を政府はいつの間にか無かったことにしてしまったが、それでも人々は円やドルを使い続けている。それは法定通貨に政府の信用があるからではなく、国民が馬鹿だからである。厳しいようだが事実だろう。
法定通貨の裏付け
しかしロジャーズ氏によると法定通貨にも政府による裏付けがあるようである。そしてそれこそが、ロジャーズ氏が暗号通貨は生き残ることができないと考える理由である。ロジャーズ氏はこう語る。
もし仮想通貨が現在のようなギャンブルの対象ではなく、本物のマネーとして成功するようになったら、政府は仮想通貨を違法な存在にして排除するようになるだろう。
仮想通貨がいずれなくなると私が考えているのは、政府という権力が持つ「武力」という裏付けがないからだ。
あまりに明確でしかも正しい指摘である。そして暗号通貨にはその「裏付け」がないのである。
こうして人々は法定通貨を持ち続けることになるのかもしれない。自分の頭で考えない人々には朗報かもしれない。何も考えずに財布に紙切れを入れ続けることができる。
しかしレイ・ダリオ氏によれば、そうでもないようである。世界最大のヘッジファンドを率いるダリオ氏は20世紀以前に衰退した過去の基軸通貨の研究を始めている。
次はドルや円やユーロの番だとダリオ氏は言いたいのだろう。わたしは一番先に落ちるのはユーロだと考えている。
量的緩和や現金給付が何かを救うことはない。コロナはそれを現実にしてしまうだろう。