ジョージ・ソロス氏: 市場は絶望と希望の間を揺れ動いている

現在89歳の著名ヘッジファンドマネージャー、ジョージ・ソロス氏は既に一線を退いており、現在では左派の政治活動に注力している。インタビューが出てもほとんどは政治の話であり、市場に関して話すことはあまりない。

今回紹介するAusburger Allgemeineのインタビューでもそうなのだが、現在の新型コロナ相場に関して重要な発言が1箇所だけあったので紹介しておきたい。

新型コロナ相場とソロス氏

政治に関してはアメリカがトランプ政権、イギリスがジョンソン政権となった今ではリベラル派のソロス氏の望みはEUしかない。それで今回のインタビューでもほとんどはEUの話なのだが、インタビューの最後に今の相場の本質を突くような発言をしている。ソロス氏は次のように述べている。

相場が賢明な動きをするとは決して思ってはならない。市場は人間とまったく同じように完璧からは程遠い。

コロナ相場でもまた同じことが起こっているだけだ。人間は絶望と希望の間を毎日行ったり来たりする。相場もまったく同じことだ。市場参加者はわれわれより多くのことを知っているわけではない。

株式市場のチャートを見てみればその意味が分かるだろう。以下は米国株のチャートだが、一度40%ほども下落した後、その半分以上を戻している。

3月が絶望、今が希望というわけである。ではソロス氏にとってどちらが正しいのだろうか? 彼はインタビューではそのことを語らなかったが、彼の米国株買いポジションを開示するForm 13Fを見ればその答えが分かる。

Form 13F

これまで他の投資家のForm 13Fを紹介してきた通り、最新のForm 13Fは機関投資家の3月末のポジションを開示している。3月末は底値付近に近く、ソロス氏がこの時の下落相場を過度な悲観だと考えていたならば、彼は株を大量に買っているはずである。

では彼のForm 13Fがどうなっているかと言えば、ほとんど言及する内容がない内容になっている。何故ならば、彼はほとんど何も買っていないからである。

2018年の世界同時株安以降、ソロス氏の米国株買いポジションはかなり規模の小さいものとなっているが、2020年3月末のものはその中でも最小のポートフォリオ規模となっている。金額は20億ドルで前回(12月末)の31億ドルから2/3の規模になっているが、そもそもソロス氏が株を買う時には米国株買いポジションは130億ドル以上の規模になるため、20億ドルはソロス氏のファンド規模からすればほとんど何も買っていないに等しいのである。

底値でさえも株式はソロス氏にとって魅力的ではなかった。それが答えである。

結論

よってソロス氏の言う「絶望と希望」というのは、現在の上がった株価の方が過度な楽観ということになる。しかしそれよりも重要なのは株式市場とはこういうものだということを認識することである。

例えば2018年9月に始まった世界同時株安の原因はアメリカの量的引き締め政策だったことを思い出したい。

しかしその原因となった量的引き締め政策がいつ開始されたかと言えば、それは2017年9月なのである。その時から量的引き締め政策はずっと行われ続けていたにもかかわらず相場はそれを織り込まず株式市場は上昇を続け、筆者がようやく下がると判断して空売りを開始したのが2018年8月、市場が下落を開始したのが翌月の9月なのである。

つまり暴落の原因となるものが発生してから暴落が開始するまでに1年かかったということになる。それまで市場は楽観状態にあったわけである。

よって数カ月規模の金融市場の動きに惑わされてはならない。それは何も意味していない。市場が下がったからといって何か問題が発生しているとも限らず、市場が上がったからといって問題がなくなったわけでもないからである。

重要なのは最後に何処に行くかなのだが、ソロス氏を含め、それについての著名投資家の見解は一致しているようである。

(5/20 ポジションの金額を訂正しました。)