世界最大のヘッジファンド、3月の底値でも株式は買わず

毎四半期恒例、機関投資家の米国株買いポートフォリオを開示するForm 13Fの時期がやってきた。今回の開示は時期的には丁度良い。何故ならば3月末のポートフォリオの開示となるため、株式市場が底値に近かった時期に著名投資家が株を買ったのかどうかが明らかになるからである。

3月末のポートフォリオ

新型コロナウィルスの世界的流行によって株式市場は2月から下落相場に入ったが、3月末に一旦底を打ち反発している。以下は米国株のチャートである。

底値に近いこの水準で著名投資家たちは株を買っていたのだろうか? 今回の記事ではレイ・ダリオ氏の運用する世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterのポートフォリオを見てゆきたい。

ダリオ氏の相場観

これまでのダリオ氏の相場観の推移だが、まずダリオ氏は1月の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)で株式市場に強気の見方を示していた。

新型コロナウィルスが来なければそれは当たっていたのかもしれない。しかし新型コロナから逃げ遅れたダリオ氏はその後大きな損失を出している。

その後自分の失敗に気付いたダリオ氏は怒涛の勢いで相場観を修正、しかもそれを逐一ブログで公表する、周囲の投資家にとっては大盤振る舞いとなっていた。

しかしダリオ氏は多くの投稿のなかで意図的に株価水準への言及を避けていたように思える。唯一、インタビューで「株価は直近の高値を長い間取り戻すことはないだろう」と語っていた箇所はあったが、それだけである。

1月に高らかに強気宣言をした後に大コケしてしまったのでもう言いたくないというのもあるだろうが、ダリオ氏ほど影響力の強い投資家が「株は高すぎる、空売りすべきだ」などと言うとあらゆる所から無用な批判を呼ぶため、そもそも市場に対して弱気な発言を公に出来ないというのもあっただろう。

一方で記事の所々には「デフレは続くが紙幣印刷は資産価格にはプラス」という表現や、下落相場が落ち着いた後に株高へと向かった1929年の世界恐慌後の相場との類似点を指摘するなど、資産価格の上昇を思わせるような指摘もあったため、ダリオ氏が本当のところ今の株価水準をどう思っているのか気になっていたところである。

Bridgewaterのポートフォリオ

さて、ではBridgewaterのポートフォリオが3月末にどうなっていたかだが、結論から言えばBridgewaterは株を買っていなかった。

まずForm 13Fに報告されている米国株買いポジションの総額だが、前回(年末)の98億ドルから50億ドルにほぼ半分近い水準まで減らされている。

個別のポジションを見てゆくと、金額が大きいもので減らされているポジションは以下のものがある。

  • S&P 500 ETF (SPY): 22億ドル → 9億ドル
  • 新興国株式ETF (VWO): 11億ドル → 5億ドル
  • ブラジル株式ETF (EWZ): 5億ドル → 2億ドル
  • 高利回り債券ETF (HYG): 3億ドル → 2億ドル

完全なリスクオフ状態である。しかも米国株(S&P 500)だけではなく、「中国に覇権が移る」と主張しながらも新興国株ETFを買っていない。繰り返すが3月末はむしろ底値に近かったのである。因みに結構大きなポジションとなっていたブラジルは今大変な状態になっている。

逆に増えているものは以下の通りである。

  • ゴールドETF (GLD): 5.8億ドル → 6.0億ドル
  • 超長期米国債ETF (TLT): 2.6億ドル → 2.8億ドル

ゴールドと米国債、これらは主なポジションは先物で取っているのだろうが、こちらも完全なリスクオフであると言える。

結論

もう一度米国株のチャートを掲載するが、3月末には米国株は底値付近だった。

現在株を空売りしている筆者でも当時は株を買っていた。3月26日に買い始め、4月15日に利益確定している。

そして4月21日に空売りを開始している。

ダリオ氏はその当時の安い水準でも株を買っていなかったことになる。気になるのは当時から株高が進んだ今ダリオ氏が株を買っているかどうかだが、当時の水準で買っていないのであれば今も買っていないのではないか。

恐らくは「株価は直近の高値を長らく取り戻すことはない」というコメントが本音であり、世界恐慌の後のように資産価格は押し上がるが、当時のように一度暴落してから押し上がるという意味なのだろう。

この推測が正しければ、ドラッケンミラー氏、ガンドラック氏に続いてレイ・ダリオ氏も株式市場に対して弱気ということになる。

なかなかおもしろい状況である。株式市場の動向に関しては今後も報じてゆく。