スイス国立銀行、為替介入で窮地 スイスフランショック再来の危機か

新型コロナウィルスの世界的流行で貯蓄のない国は窮地に陥っている。貧しい国ほど長期間のロックダウンに耐えられないからである。例えばブラジルはそういう窮地に陥っており、ブラジルの通貨レアルの下落は歯止めが効かない状態である。

しかし全く反対の理由で窮地に陥っている中央銀行がある。スイス国立銀行である。

通貨の上昇を必死に食い止める中央銀行

スイスはヨーロッパの中央にある豊かな国である。政府債務はGDPの39%と他の先進国より少なく、外国に対して保有する資産から負債を引いた対外純資産はGDPの119%にものぼっている。

コロナショックはどの国にとっても痛手となっているが、それを上手く切り抜けられる国はブラジルとは真逆の国、つまり国民と政府に十分な資産があり、国民の衛生観念もある程度しっかりしている国である。

スイスはこの条件に当てはまる世界有数の国であると言える。しかしそのことがスイスの中央銀行であるスイス国立銀行の窮地を生んでいる。スイス国立銀行のヨルダン総裁は次のように語っている。

コロナ危機によって生じたスイスフラン建て資産への資金流入によって、われわれはスイスフランへのプレッシャーを減らすべく為替市場で活発なオペレーションを行なっている。

中銀はトレーディングの詳細は決して明かさないが、大規模に動いていることだけは強調したい。

ブラジルとは違い、スイス中央銀行は自国通貨の上昇を避けるために躍起になっている。何故か? スイスにとってユーロに対する通貨上昇は常に問題になってきたのである。

上がり続けるスイスフラン

ユーロスイスフラン(EURCHF)のチャートは次のようになっている。今回はやや長期のチャートを貼ってみよう。下方向がユーロ安スイスフラン高である。

スイスはヨーロッパの中央に位置する国であり、周りをドイツ、フランス、イタリアなどのユーロ加盟国に囲まれている。そしてユーロ経済が問題を抱え続け、ユーロが下落し続けているためにスイスは常に周囲の国との物価の違いに悩まされ続けているのである。

ユーロに対してスイスフランが高くなりすぎれば輸出が出来なくなり、ユーロ圏からスイスに観光に来る人も少なくなるだろう。

しかし残念ながらユーロの問題は終わることがない。筆者の見通しでは、先進国経済のなかでコロナショックのダメージを真っ先に受けるのはユーロ圏である。以下の記事で説明しているが、スペインやポルトガルまでイタリアやギリシャの経済のような機能不全に陥ることはほぼ不可避の状況となっている。

それは南欧諸国に貯金がなく、借金が多いからである。それはコロナショックのダメージが大きくなる最大の条件である。これについては以下の記事で説明している。

そしてその正反対の状況にあるのが富裕国スイスなのである。

スイスフラン上昇は不可避か

もう一度チャートを見てみよう。1ユーロ1.05スイスフランの水準はスイス国立銀行にとってここ数年暗黙の防衛ラインとなってきた。

もともとは1.2が防衛ラインであり、スイス国立銀行はそれを明言していたのだが、2015年にそのラインを守りきれなくなりある日突如介入を断念、フランは1日で30%も上昇することとなった。チャートの赤い線がそれである。長期チャートでもその線はよく見える。

その後紆余曲折はあったが、次のラインは事実上1.05となっている。ヨルダン総裁はこの1.05を死守するかと聞かれて次のように答えている。

ユーロに対して特定の防衛ラインはない。スイス国立銀行は役割を果たすためにすべての通貨の状況を考慮に入れる。

ヨルダン総裁は恐らくある程度諦めている。スイス国立銀行がユーロを気にしていない訳がない。しかし少なくとも絶対防衛ラインを敷くことが得策ではないことをスイスフランショックの経験から学んだのだろう。

実際、為替介入とは下がりゆくユーロを無限に買い続けることであり、お陰でスイス国立銀行のバランスシートは膨らみ続け、今年の第1四半期の為替差損は390億ドルに達している。

これは小国スイスのGDPの5%に相当する。GDPの5%と言えばトランプ政権がコロナ対策に使った金額と似たようなものであり、スイス国立銀行と言えども為替介入のためにその金額を毎四半期失い続けるわけには行かないだろう。中央銀行がFXにはまった主婦のようになってしまう。

結論

というわけで、スイスフランはユーロに対して上昇を続けるだろう。新型コロナへの対処は資産が多く借金の少ない国ほど上手く立ち回れるというのは時間が経てば経つほど鮮明となってくるだろう。その理由については以下の記事を再読してほしい。

ヨルダン総裁には申し訳ないが、ユーロスイスフランの空売り(スイスフランの買い)は継続させてもらう。一番のシナリオはスイスフランショックのような急騰だが、メインシナリオとしては緩やかなスイスフランの上昇ということになるだろう。