1987年のブラックマンデーにおける株価暴落を予想したことで有名なポール・チューダー・ジョーンズ氏がCNBCによるインタビューで新型コロナ相場の見通しについてコメントしている。
新型コロナ相場見通し
新型コロナウィルスの流行によって世界中の都市がロックダウンに陥ったため、株式市場は2月から3月にかけて下落したが、その後反発している。米国株のチャートは次のようになっている。
ジョーンズ氏はここまでの流れについて次のように述べている。
ここまでの反発を予想するのは簡単だったと思う。ここからどうなるかはコロナ次第だろう。市場の関心は流動性(訳注:市場に流入する資金量)の問題から実体経済の支払い能力の問題にシフトしてゆくと思われる。
ブラックマンデーを予想したジョーンズ氏はここまでの反発の予想が簡単だったとあっさり言っている。筆者は3月26日に株を買い始め、4月15日に利益確定しているが、特にタイミングに関してはその判断は簡単ではなかった。
レイ・ダリオ氏でさえ損を出している相場なのである。
1987年にブラックマンデーを予想するのも簡単ではなかっただろう。熟練のトレーダーは流石である。
しかしジョーンズ氏によればここからの相場は新型コロナウィルスに対処できるかという実体経済の問題になるという。ジョーンズ氏は次のように続ける。
ワクチンなど治療法を見つけることが出来なければ、あるいは検査をもっと大規模に行う方法を見つけられなければ、市場にとってはもっと難しい局面となるだろう。
個人主義と中央集権
また、ジョーンズ氏は新型コロナにおいてアジア諸国が感染者の行動の追跡など中央集権的な方法でウィルスを押さえ込んでいることについて以下のように述べた。
アメリカでは同じようには出来ない。アメリカ人は一致団結してそうした処置を行うことは出来ないだろう。
アメリカの最大の強みは個人主義、自由への愛だ。パンデミックの状況下ではそれは最大の弱みになる。アジア諸国はコロナ打倒に成功している。彼らは個人の権利よりも社会の価値観に重きを置いているからだ。
ジョージ・ソロス氏も著書『ソロスの錬金術』で同じようなことを言っていた。奇しくもそれは1987年のブラックマンデーから日本市場がいち早く回復したことに関するソロス氏のコメントである。
大暴落を免れた市場は日本だけだった。ブラック・マンデーに続いて、一日だけパニック状態に陥っただけで正常に戻った。
日本市場の取引が始まる前に、大蔵省が、どこかに何本か電話を入れたために、売り注文は奇跡的に姿を消し、大規模な機関投資家がそろって積極的な買い手に変身していたのである。
そしてそうした中央集権的な対処を可能にした日本社会についてソロス氏は次のようにコメントしている。
日本社会に浸透している価値体系は、閉鎖的なもので、個人の利害も社会の利害のまえでは制限されると考えられている。
この見方は、強制的に形成されたものではない。日本は専制国家に似ても似つかない。きわめて強力な国民の使命感と社会的結束を特徴とする国にすぎないのだ。
彼らはそのような価値観を持っているために、非難されるということはない。むしろ、社会のために個人的な犠牲を払いたがらないアメリカ人を批判する方がもっともだと思われる。
これは「開かれた社会」のために莫大な資金のすべてを使い世界中でリベラル派の政治の支援をしているソロス氏としては中央集権的な社会に対する破格の評価である。しかし大蔵省が無理矢理演出した当時の日本の株高は、誰でも知っているようにその2年後に崩壊し、日本株はその時の高値を二度と取り戻すことはなかった。今の株価は当時の半分である。
今では世界中の中央銀行が当時の日本と同じことをしている。レイ・ダリオ氏などは、それが上手く行かないと警鐘を鳴らしている。
しかし面白いのは、アメリカ人はどうも個人主義に負い目を感じているようだということである。ソロス氏の日本経済への印象は過大評価だったが、アジアのコロナ対処に関するジョーンズ氏の評価はどうなるだろうか。今後もコロナ情勢を報じてゆく。