ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを創業したジム・ロジャーズ氏がET Marketsのインタビューで現在の株式市場とコロナショックにおける政治について語っている。
新型コロナ相場
新型コロナウィルスの世界的流行で世界経済の大部分がストップしたことで株式市場は3月に急落したが、その後急回復している。以下は米国株のチャートである。
ロジャーズ氏は「株式市場が何も起こらなかったかのように振る舞っているのは何故か」と聞かれて次のように答えている。
何も起こっていないだって? 何を言っているんだ? アメリカは財務省が何兆ドルものお金をばら撒いている。何も起こっていないだって? 日銀の彼は通勤する度に輪転機のボタンを押して出来るだけ早く紙幣を印刷している。世界中ですべての中央銀行や政府が際限なく印刷し、ばら撒き、借金している。市場は当然上昇する。
質問者は「では現実と市場が乖離しているということか」と尋ねる。ロジャーズ氏は次のように答えている。
勿論だ。さっき言った通り、ほとんどすべての国が紙幣を印刷してばら撒いており、その資金は何処かには行かなければならない。だから金融市場に資金が行って、起こるべきことが起こった。余剰資金は金融市場に行くものだ。
ロジャーズ氏はこうした経済対策が実体経済を救わないと考えている。それでもこれらの経済対策が行われているのは何故か? ロジャーズ氏は次のように説明する。
アメリカでは半年後の11月には大統領選挙がある。政治家は皆再選されたがっている。彼らはあなたやわたしや子供たちのことは気にしていない。彼らは11月に再選されるかどうかだけを気にしている。だから当面の間は良いことが起こり続け、株式市場は大丈夫だろう。しかし債務は世界中で限界を越えている。世界中で紙幣が印刷されている。いつか付けを払うことになるだろう。
量的緩和はどういう終わりを迎えるか
こうしたことは長らく起こってきた。量的緩和は基本的に資産価格を上げるだけの政策なので、金融資産を持っている人に対して持っていない人を相対的に不利にするだけの政策である。
それでも量的緩和は人々に支持される。レイ・ダリオ氏はその状況をボードゲームに例えて説明した。
これはある意味モノポリー(訳注:人生ゲームのようなもの)でプレイヤーのほとんどが文無しになって怒り出したので銀行役の人が現金を配り始める瞬間と同じようなものだ。
紙幣を印刷しても増えるのは紙だけである。物やサービスが降ってくるわけではない。金相場が上がっているのは、金は印刷できないからである。
これまではインフレを引き起こさずに金利を下げられてきた。それで多くの人々は付けを払う瞬間が永遠に来ないかのような錯覚に陥っている。しかし遂にダリオ氏のような投資家が付けを払う瞬間に経済がどうなるかについて真剣に考え始めている。
今後の株価の動きは実体経済にとって重要になるだろう。新型コロナで実体経済は深刻なダメージを受けている。
これだけのダメージにもかかわらず株価が上がるほどの資金が流れ込んでいる場合、恐らくダリオ氏の言う通りインフレになるだろう。インフレとは紙を印刷できても食品やサービスを印刷できないことを人々が理解する瞬間である。そして財布の中にある紙切れは文字通り紙切れになるのである。
今のところその予兆はないように思える。しかしもっと深く考えてみる必要があるだろう。