イギリスの通貨ポンドの空売りを始めようと思う。新型コロナウィルスによる都市ロックダウンで家計と企業に莫大な収入減が生じており、これは世界的な経済危機に繋がる可能性が高い。
投資家としてこの環境下で下落しやすい通貨を探していたのだが、どうやらポンドが一番条件を満たしていそうである。
ポンド空売り
今回のポンドの空売りは対日本円で行うことにする。ポンド円のチャートは現在次のように推移している。
空売りする通貨としてポンドを選んだのはイギリスが通貨下落の以下の条件をすべて満たしていたためである。
- 巨大な対外債務があること
- 経済が銀行業に依存していること
- 対外資産が少ないこと
- 基軸通貨でないこと
順番に説明してゆきたい。
大きな対外債務
まず、イギリスはGDP比300%以上の対外債務を負っている。
対外債務とは他国に返さなければならない借金のことである。借金には金利があり、新型コロナで倒産が増えると金利が上昇する。これは他国への支払いが増える(つまりポンドを売って外貨を買う必要が生じる)ことを意味すると同時に、借り換えができなくなった企業は外貨建ての借金を返済しなければならなくなる。この場合にも企業はポンドを売って外貨を調達し返済することになるので、ポンド安に繋がるのである。
銀行業への依存
金融センターであるロンドンを首都に持つイギリスは世界中の企業のバランスシート(つまり財政状況)に対してリスクを負っている。新型コロナによる都市ロックダウンで多くの企業が売上減少に直面しており、一部の企業は倒産している。このリスクを一身に背負うのが銀行業だということになる。株式市場でも銀行株の状況が特に悪いことは以下の記事で説明している。
銀行株は既にかなり売られているが、それがポンドにもたらすリスクについては十分に織り込まれてはいないだろう。ポンドはまだ高いと言える。
少ない対外資産
さてこれまで2つの条件を述べたが、以上の条件を満たすにもかかわらずそれほど売られていない通貨が存在する。スイスフランである。
スイスの対外債務も260%に達するにもかかわらず、ポンドと同じ状況には陥っていない。その理由は対外債務を上回るスイスの対外資産である。スイスの対外資産は対外債務を大きく上回っているので、その差し引きである対外純資産はGDPの100%を上回る。一方でイギリスの対外資産は対外債務より少なく、対外純資産はややマイナスとなっている。
前述したように、対外負債が通貨安の原因となるのは債務の返済を迫られる場合である。しかし資産のある場合はそういう状況には追い込まれないだろう。よってフランは売れないがポンドは売れるのである。
基軸通貨でないこと
さて、上記の条件をすべて満たすにもかかわらず下落していない通貨が存在する。ドルである。しかもドルは中央銀行が大幅利下げと無制限の量的緩和という大規模な金融緩和を行なったにもかかわらずほとんど下落していないどころか、多くの通貨に対して上昇している。
アメリカはGDP比100%近い対外債務を抱えており、しかも対外純資産はイギリスより悪い40%以上のマイナスとなっている。そしてイギリスほどではないがGDPに占める銀行業の割合も大きい。
それでもドルが下がっていないのはドルが世界中で使われている通貨だからである。世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏が述べていた覇権国の特権である。
対外債務といってもその通貨が自国建てである場合にはそれを返済しても為替には影響しない。それどころかアメリカと無関係のところで世界中の国々がドル建てのお金の貸し借りを行なっており、それらが返済される場合にはドル買い圧力となるのである。コロナショックにもかかわらずドル円が下がっていない理由はそこにある。
結論
これらすべての条件を満たす通貨はどうやらポンドしか存在しなさそうである。また空売りはポンドドルではなくポンド円に対して行う。ドルは長期金利に下落余地があり上げ要因と下げ要因が混在しており、必ずしも下がらないとは言えないからである。ポンド円のチャートを再掲する。
コロナショックはこれから世界的な不況に発展する。ほとんどすべての先進国がマイナス成長となり、それは一般に想定されているよりも長く続くだろう。
そうした環境はこれまで借金に依存してぎりぎり成長を保ってきた財政の脆弱な国々に大きなダメージをもたらすことになる。イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャなどそうした国々は実はヨーロッパに集中しているのだが、イギリスはそのヨーロッパで大いに銀行業を営んでいることもあり、大きなヨーロッパリスクを抱えている。その意味でもポンドにとってはリスク要因が多いのである。