世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がBloombergのインタビューでインフレに関する非常に重要なコメントを述べている。
インフレと資産価格
新型コロナウィルスによる都市ロックダウンの経済への影響については色々なことが言われている。流行状況自体はアメリカでもヨーロッパでも改善する一方で、その後経済は回復するのかということが問題となっている。
実体経済が一時的な景気後退になるということは大多数が同意するところであり、その傾向は既に統計や決算に表れ始めている。
一方でアメリカや日本の政府は大規模な経済対策を決定しており、特にアメリカの2兆ドルの経済対策はアメリカのGDPの10%近くに達する。経済対策は景気減速を止めることが出来るのだろうか? そして物価はどうなるのだろうか。
アメリカと日本で国民に現金を配るヘリコプターマネー政策が既に決定されている。国民は配られた現金をある程度は消費に回すだろう。世界経済はインフレ率の上がらない状態を長らく経験しているが、政府が国民に無制限に現金を配ってもインフレにはならないのだろうか?
ダリオ氏の答えはそれでもデフレは続くというもののようである。彼は次のように述べている
インフレには2種類ある。1つはものやサービスの値段が上がることであり、もう1つは貨幣の価値に関するもので、ある種の資産の価格が上がることだ。
1つはものやサービスの需要と供給が逼迫していてものが不足している状態で、需給のインフレと呼べるだろう。もう1つは金融インフレである。1930年からの時代ではものに関してはデフレだったが、金融資産はインフレになった。そして通貨は下落した。通貨は別の通貨に対して下落し、更にゴールドは当時通貨として考えられていたが、ゴールドに対しても下落した。
ダリオ氏はもののインフレと資産のインフレは違うと言う。そして今はどちらのインフレが問題になっているのかと言えば、彼は次のように述べている。
これからわれわれが突入する時代は恐らく1930年から1945年までの期間(訳注:世界恐慌から戦争終結まで)に似ているだろう。この期間にはデフレ圧力があり、それは今と同じである。
正確に言えばこの時期は戦争期間を除いてアメリカではデフレあるいは低インフレとなっている。世界恐慌を受けてFed(連邦準備制度)はゼロ金利政策を採用し、ゼロ金利は戦争が終わるまで解除されなかった。ちなみに株価については1929年に高値に達し、そこから1932年まで90%下落してから上昇を再開した。
また、ダリオ氏は1980年代との類似性も指摘する。
1982年から1990年の期間も今に似ていると言える。世界的に債務が大きく、経済には資金が足りなかった。そして債務危機が起こった。状況は国によっても違った。新興国では債務が大きく、Fedの緩和の恩恵を受けることもできなかったため通貨危機が起こった。
1982年はアメリカで金利が頂点に達し、金利の下落トレンドが始まった頃である。金利低下トレンドはその後2008年のゼロ金利まで続いている。金利水準という意味では当時と今はまったく違うが、ダリオ氏の言いたいことは次の点なのだろう。
この時期はアメリカにとってはリフレの時代だった。資産価格は上がったがインフレは減速していった。
そしてダリオ氏はこう続ける。
だからインフレの種類を区別することが重要なのだ。今の状況はは需要と供給のインフレではない。ものが足りなくなるわけではない。これは金融インフレだ。金融インフレの初期には資産価格が上昇する。それはある程度金価格に織り込まれ、ある程度株価や他の資産価格に織り込まれることになる。
つまり、無制限の量的緩和やヘリコプターマネー政策などの未曾有の経済対策は金相場と株式市場に影響を及ぼすが、インフレを引き起こすわけではないとダリオ氏は予想しているのである。金相場は世界的な金融緩和を受けて上昇している。
そしてより大きな問題は現状次のようになっている株価がどうなるかである。
結論
ダリオ氏は現状が株価と金相場にプラスに働くということを明らかに示唆している。金相場はこれまでそのように動いている。一方で問題は株価の方である。
ダリオ氏は少し前のインタビューで「株価は何年も前回の高値を取り戻すことはないだろう」とも述べているのである。そこで問題となってくるのが、ダリオ氏は現状を1929年の不況の始まり(株価にとってはピークとなった)と見ているのか、1932年の株価の底値を越えた状態と見ているのかということである。例えばコロナショックの空売りで儲けたガンドラック氏などはまだ1932年に達していないと考えているのだろう。
ダリオ氏はBloombergのリポーターに聞かれても株価水準について多くを述べなかった。3月からの株価反発については「不思議はない」とは述べている。
そこでやはり個人的に考えたいのは「株価は3月の底値では買える状態だった」という結論である。
株式全体の買い持ちについては筆者は既に利益確定しており、この結論は株価が既に上がってしまった今では役に立たないとも思えそうだが、実際にはそうでもない。考えるべきなのは現在相場には以下の3つの種類の株があるということである。
- 新型コロナの影響を受けるにもかかわらず何の問題もなく株価が反発した銘柄
- 新型コロナの影響を受けるがそれを織り込んだ安値になっている銘柄
- 新型コロナの影響を受けないにもかかわらずある程度下がった銘柄
例えばAppleなどは平然と反発しているが、Apple Storeが閉まった影響はどうでも良いのだろうか。
そして株価指数が反発したからといって、すべての銘柄が既に上がったわけではない。
つまりは以下の記事で書いたように1つ1つの銘柄をしっかり分析し、しっかりと安値で掴めた銘柄については1932年の底からそれほど遠くないと思って良いのだろう。また、ハイテク株など新型コロナの影響を受けにくい銘柄も保有していける銘柄である。
しかしどの株価でそれを掴むか、掴んだかということが非常に重要である。銘柄を厳選してかなりの割安水準でそれを掴まなければならない。繰り返しになるが、株を買っている読者についても持っている銘柄を厳選することをお勧めしたい。