米国では未曾有の金融緩和が終わり、利上げへと動き始めているが、一方でドル高が輸出を軽減しており、遂にはFed(連邦準備制度)もドル高への懸念を表明した。これは利上げ観測の逆戻りを意味する。
米国の利上げが投資家最大の関心事である今、ドル高は利上げへの進捗を測る一種の指標となっており、そのため世界中の金融市場のほとんどがドル高と連動していると言える。
これは投資家にとってそれだけでリスクである。世界中に分散投資をしたポートフォリオであっても、そのすべてがドル高に連動していれば、本当の意味で分散をしていることにはならないからである。例えば、ドル円の買いと日本の輸出株の買いは、資産クラスが違うにもかかわらず、両方ともドル高に正の相関があるポジションであり、言わばドルを二重に買っていることになる。
ファンドマネージャーの仕事の1つは、こういった予期せぬリスク集中を最小限に押さえることであり、このことは下記の記事で一般論を説明した。
この記事ではこの考え方が2015年の相場にどう応用できるのかを説明したい。
米国利上げで上がるもの
米国の利上げで価格が上がる金融商品もあれば、価格の下がる金融商品もある。したがって、先ずはどのようなポジションを取れば利上げの時に得をし、どのようなポジションを取れば利上げ観測が後退した時に得をするのかを書いてみたい。先ずは利上げの恩恵を受けるポジション一覧である。
- ドル買い
- 米国債の売り
- 米国株の売り
- 欧州輸出株の買い
- 航空株の買い
- 保険株の買い
利上げで上がる金融商品は色々あるが、ここには一番妥当性のありそうな投資だけを記述した。ユーロ安による欧州輸出株の買いについては以前Daimler (XETRA:DAI、Google Finance)を推奨したが、その後上昇しており新規買い参入するべき価格ではない。また買い場、買うべき銘柄があれば紹介したい。
航空株は原油価格が下がることで恩恵を受ける。イギリスのeasyJet (LSE:EZJ、Google Finance)やアメリカのJetBlue (NASDAQ:JBLU、Google Finance)などに言及してきたが、こちらも上昇している。
債券利回りの上昇で恩恵を受ける保険株については、米国のLincoln National (NYSE:LNC、Google Finance)を推奨し、こちらも10%上がったが、P/E(株価収益率)はまだ10前後である。利上げが問題なく進み、かつ米国株が暴落しなければ、P/Eで14程度までの上げを想定している。米国の保険株は英国のものに比べ過小評価されている。
米国利上げで下がるもの
では、逆に利上げ観測が後退したときに上がるものは何だろうか?
米国が金融引き締めから方向転換した場合、影響を受けるのは米国の金融市場だけではない。何ヶ月も売り続けられていたユーロドルが反発することから、ユーロ安によるインフレ率上昇を期待していたECB(欧州中央銀行)は更なる緩和に追い込まれるだろう。また、下落するドルに対して相対的に価値の高まるコモディティ全般も恩恵を受ける。
- ポンドドルの買い
- 金買い
- 欧州不動産株の買い
- エネルギー関連株買い
基本的には資本逃避銘柄ということで、外貨と現物資産が買いということになる。金はやはり1,000ドルに近づいたあたりで買いを入れたい。不動産株は欧州のものが良いだろう。Daimlerとともに紹介した、フランクフルト国際空港を保有するFraport (XETRA:FRA、Google Finance)は、原油安、ユーロ安、量的緩和のすべての恩恵を受けるバランスの良い銘柄である。
バランスの良いポートフォリオを
重要なのは、意図しないポジションの偏りをポートフォリオから取り除くことである。個人的な話をすれば、ドル高の反転を懸念しながらポートフォリオを調整した結果、ある程度のバランスを確保できたのではないかと思う。
先ず、3月に一定量買い入れたポンドは、利上げ観測の後退により米国株の空売りポジションが損を出すときに、ドルに対して価値が上がるため、その損を補完してくれている。エネルギー関連株もドルが下がったときに利益を出すポジションである。
逆に、利上げに向けて順調に進むときには米国株の空売りが効くだろうし、欧州の主要な輸出株は順当にバブルへと進むだろう。このように、状況がどのように転んでも個別のポジションが互いにリスクを打ち消し合い、常に一定の利益を出し続けるポートフォリオこそが、グローバル・マクロの真骨頂である。他の戦略を採用する投資家も、自分のポートフォリオがどのようにドル高に相関しているのか、一度確認してみるのが良いだろう。