新型コロナウィルス肺炎の世界的流行で飛行機が飛ばなくなり原油の需要が減少、原油価格が暴落しているが、ついにアメリカのシェール企業Whiting Petroleumが経営破綻した。新型コロナで初のシェール大手の倒産である。
借金漬けのWhiting Petroleum
前々から報じているようにこれはニュースではなく不可避のイベントである。現在の20ドル前後という原油価格ではサウジやロシアよりも産油コストの高いアメリカのシェール企業は生き残ることができない。
Whiting Petroleumの現在の株価は0.37ドルであり、年始の7.45ドルから95%の株価下落となっている。
ちなみに長期チャートは次のようになっている。
つまり価値がほぼゼロになったということである。
このWhiting Petroleumの損益計算書がなかなか面白いので引用してみると次のようになっている。2019年のデータであり、2019年の原油価格は平均で60ドル程度、今の3倍だった。
- 売上高: 1,572百万ドル
- 営業利益: 13百万ドル
- 利息の支払い等: 182百万ドル
- 税引き前利益: -169百万ドル
まず営業利益が売上高の1%にも満たず、60ドルの原油価格でもほとんど利益が出ていないのだが、それよりも重大なのは売上高の1割を超える利息の支払いがあるということである。もうこうなっては破綻は避けられない。以下の記事でも説明したが、他のシェール大手はもう少しましな財政をしている。しかしそれでも20ドルの原油価格では生き残りは無理だろう。
産油国に対話の兆し
さて、原油価格をめぐっては産油国の水面下での争いが続いている。
原油価格についてはまずサウジアラビア率いるOPECとロシアとの間で対話が持たれた。OPECはロシアも減産に参加するならOPECも減産し価格安定に尽力するとして話し合いを持ちかけたが、ロシアがこれを蹴り、原油価格は40ドル台から20ドル台まで暴落した。
蹴ったのはロシアのプーチン大統領とロシアの産油最大手のRosneftだが、彼らは間違いなく今回のような米国シェール企業の破綻を狙っていたのである。RosneftやサウジアラビアのSaudi Aramcoなどは20ドル台の原油価格でも赤字にはならないはずだが、シェール企業は損益分岐点が40ドル台であるため、こういう状況になればアメリカのシェール企業が真っ先に破綻してゆくのである。
この状況で音を上げたのがアメリカのトランプ大統領である。トランプ大統領はロシアとサウジの価格競争を「クレイジー」だと主張、FOXニュースのインタビューで次のように言い、サウジとロシアの価格競争に適切な時期に介入するとした。
原油価格は上がるべきだなどと言う時が来るとは夢にも思わなかったが、原油価格は上がるべきだ。
産業全体を死なせてしまうわけにはいかない。それは彼らには悪いことであり、誰にとっても悪いことだ。
しかし価格競争に参加したいなら、こういうセリフは交渉の上手いトランプ氏らしくない発言である。間違いなくプーチン大統領はこれを聞いている。
サウジとの減産協調は蹴ったプーチン大統領だが、トランプ大統領と電話会談を行い、その後「原油相場の厳しい状況を改善するための解決策を見つけなければならない」「市場全体の状況を緩和するため、主要な生産者と消費者が連携して対処する必要がある」と述べた。
冷静なコメントだが、頭の中では確実にアメリカの窮地を交渉材料に使うことを狙っているはずである。原油価格を戻したければトランプ大統領は相応の譲歩をテーブルに上げなければならない。
政治的には譲歩は原油価格以外のことについて行われる可能性もあり、トランプ大統領の切るカード次第では原油価格は素直に上昇に向かう可能性もある。しかしそうならなくても、このまま原油安が続いてシェール企業が続々と破綻すれば供給が激減し長期的には原油価格は高騰するのである。
だから原油は買いである。そして忘れてはならないのは、この状況を支配しているのはプーチン大統領であり、その裏にはロシア最大の産油企業Rosneftがいるということである。
こうした状況で投資家が乗るべき勝馬は状況をコントロールしている主体である。だからRosneftはこの状況における買い筆頭なのである。原油相場のトレーダーにとって非常に面白い状況となってきた。原油価格については今後も報じてゆく。