2020年に入り新型コロナウィルス肺炎の世界的流行で原油相場が暴落している。年始の高値から半額以下になっているが、筆者はこれを買い場であると考えている。ファンダメンタルズの観点からは激安であり、タイミング的にも底が近いだろう。
新型コロナで原油価格暴落
先ずは原油相場のチャートを見てみたい。
年始の高値65ドルから20ドル付近まで3分の1ほどの水準まで落ち込んでいる。新型コロナの影響で航空機が飛ばなくなっており、都市封鎖などの影響で自動車などの交通量も減っているからである。
新型ウィルスによる需要減少を考えた上で20ドル台という水準が高いのか安いのかと言うと、激安である。
まずもう少し長期で原油価格の推移を見てみよう。
まず2008年のバブルで150ドル付近まで上昇し、バブル崩壊で株価とともにそこから30ドル近くまで暴落、その後数年は100ドル近辺で推移していた。
しかしアメリカで従来の方法では掘り出せなかった場所に埋まっている原油を掘り出す方法が開発され、そうして掘り出されたアメリカの原油(シェールオイル)が世界の原油の供給を急激に押し上げた結果、2015年には原油の価格は半値となり50ドル前後で推移する新たなレンジ相場が始まった。それが5年ほど続いていた中での今回のコロナショックである。
現在の20ドル台という価格を考えるためには、それまでの原油価格が何故50ドルだったのかを考えなければならない。100ドルからの急降下が50ドルで止まったことには理由がある。それはその付近が米国シェール企業の損益分岐点だったからである。
米国シェール企業の窮地
シェールオイルは採掘困難な場所にある原油を掘り出せる分、サウジアラビアなどが行なっている通常の掘削よりもコストがかかる。例えば2019年の原油価格は平均して55ドル程度だったが、テキサスのシェール企業Marathon Oilの損益計算書は簡単に書くと次のようになっている。単位は百万ドルである。
- 売上高: 5,190
- 実費費用: 2,157
- 減価償却等: 2,397
- 純利益: 480
ざっと書いたが、実費費用とは採掘にかかった費用や人件費などその年に実際にかかった費用であり、減価償却とは採掘施設の建設のために以前行なった大規模投資を何年かに分けて計上していくものだと思ってほしい。
55ドルの原油価格ではしっかり利益が出ている一方、売上高が10%も減れば純利益は吹き飛びそうである。実際に原油価格が50ドル弱だった2017年には赤字になっており、他のシェール企業の財務諸表を眺めても40ドル台がやはりシェール企業の損益分岐点だと言える。
一方で減価償却の対象となっている採掘施設については既に買ってしまったものであるため、大雑把に言えば既に施設を持っているシェール企業が採掘を止めるかどうかの判断は売上が減価償却以外の実費を上回るかどうかということになり、売上高が5分の2になれば実費を下回ってしまうことを考えると、シェール企業が施設を持っていても稼働させれば赤字になってしまう原油価格(操業停止点と呼ぶ)は20ドル付近、つまり今の原油価格の水準ということになる。
つまり、シェール企業は今の原油価格の水準では掘削設備を動かすと赤字になり、何もできずにローンの利払いなどランニングコストを払うだけの存在となっているはずである。シェール企業はジャンク債と呼ばれる信用の低い債券の主要な発行主体であり、シェール企業の資金繰りが怪しくなっているためにジャンク債が暴落、ドルの調達需要によりドル上昇の原因となっているが、それはまた別の話である。
原油価格の推移見通し
投資家にとっての問題はこのシェール企業の窮地が原油相場に長期的にどういう影響を及ぼすかである。
原油価格は元々100ドルだった。そこにシェール企業による供給増加があり、価格は50ドルになった。
ここからは2つのシナリオがある。1つは原油価格の低迷が長引き、大半のシェール企業が倒産してしまうシナリオである。
この場合、原油に投資をする投資家は価格上昇まで待たなければならなくなるが、シェール企業が絶滅するということは彼らの膨大な供給がなくなるということである。シェール企業が居なかった世界では原油価格は100ドルだった。つまり、このシナリオでは原油価格は長らく低いまま推移するものの、シェール企業が絶滅した時点で最大100ドルまで上昇する余地があるということになる。
もう1つのシナリオは新型コロナウィルスの流行減速と同時に原油価格も反発するシナリオで、この場合はシェールオイルの供給が増えすぎないところまでの上昇ということになり、上昇目標はシェール企業の損益分岐点である40ドル程度ということになるだろう。
長期投資家であれば今後数ヶ月の価格の上下を考えずに今からでも買えるだろうし、短期的な価格の上下を気にする投資家もそろそろ買い始めるべき時期だろう。
タイミングについては株式市場と同様にアメリカとヨーロッパにおける感染者数の推移を眺めることをお勧めする。以下の記事に数字を載せたが、最新のものは逐次更新してゆくつもりである。