12月12日にイギリスの総選挙が予定されている。主な争点はイギリスのEU離脱で、2016年に一度決まったものをもう一度争っていること自体がそもそもおかしいのだが、そういうことになっている。
イギリスではEUとの離脱合意を議会に通せなかったテリーザ・メイ元首相に変わり元ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏が首相となっている。
2人とも与党保守党の政治家だが、2016年の国民投票ではメイ氏がEU残留派だった一方で、ジョンソン氏は離脱派だった。ジョンソン首相の合意案も結局議会を通らなかったため、結局総選挙で決着を付けるしかないということになったわけである。
離脱派 vs 残留派
先ずは主要政党を纏めてみよう。
- 保守党: ジョンソン首相の与党、離脱派
- Brexit党: ファラージ氏の離脱のためだけの政党
- 労働党: コービン氏の最大野党、国民投票の再実施派
- 自由民主党: スウィンソン氏、離脱阻止派
簡単に言えば与党とBrexit党が離脱派、労働党と自由民主党が残留派であり、Brexit党と自由民主党はそれぞれ保守党と労働党より極端な姿勢となっている。
実際には保守党や労働党の中にも離脱派と残留派があった。そもそも2016年の国民投票で離脱が決定したにもかかわらず、残留派のメイ氏が首相になった時点で何かがおかしかったのである。その時点から国民投票の結果を無視する勢力が与党内にあったということである。
しかし何人かの保守党の残留派はジョンソン首相の強行離脱姿勢によって実質的に保守党から追い出されたため、現在の保守党はようやく離脱の党として動けるわけである。メイ氏が首相に選ばれた経緯については、アメリカ大統領選でヒラリー・クリントン氏が有権者に不人気だったにもかかわらず民主党の候補に選ばれた経緯と似ていると個人的には考えている。大統領選の経緯については以下の記事で解説した。
さて、一方の野党労働党だが、最大の弱点はコービン氏が党首だということである。コービン氏は社会主義的政策で知られ、今回の選挙でもインターネットを無料化するという政策を掲げてジョンソン氏に「狂気じみた社会主義的スキーム」と言われている。
コービン氏は労働党党首に選出される前は泡沫候補として扱われていたが、このコービン氏が党首に選出された経緯にはなかなか面白い裏があり、労働党に投票したいがコービン氏には入れたくない有権者も少なくないだろう。ジョンソン氏としてもコービン氏が党首である間に総選挙を行ってしまいたかったということである。
また、労働党はイングランドの低所得者層にも支持基盤があったのだが、彼らの多くは離脱派であるため、そうした層が保守党やBrexit党に流れることも懸念されており、労働党には二重苦ということになる。
Brexit党と自由民主党
さて、EU離脱に関して保守党と労働党よりも極端な政策を取るのがBrexit党と自由民主党だが、Brexit党のファラージ氏については既に保守党が優勢な場所では保守党とは戦わないとの姿勢を見せており、保守党との戦いよりも残留派との戦いに専念することを表明している。この動きにより離脱派の有権者は保守党に集中しつつある。
一方で残留強硬派と言えるのが自由民主党である。EU離脱に関して自由民主党のウェブサイトには「EU離脱を止める」とだけ書かれている。国民投票に関する言及はない。2016年の国民投票など無かったという姿勢なのだろう。
2016年の国民投票などなかったのか?
労働党のウェブサイトに書かれているのは「2度目の国民投票で最後の意見表明を」である。要するに「もう1回だけ、これで最後だから」ということである。しかし2回目が正当化されるのなら3回目も正当化されるだろう。国民投票とはそういうものではないはずである。
自由民主党もそうだが、そうした姿勢がイギリス国民に支持されるのか、12月12日に結論が出るだろう。大手メディアの意見を鵜呑みにしている人々にはイギリス国民の決断は不可解なものになるかもしれないが、ここの読者には少なくとも不可解な結果には映らないだろう。
世論調査の結果もいくつも出ているので、近い内にそちらも取り上げたい。