世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が量的緩和バブルの限界を予想している。かなり長い記事(原文英語)なのだが、今後の相場を予想する上で非常に重要なので要点をここで説明したい。
ダリオ氏は金融市場のパラダイムシフトが近いと予想している。リーマンショック以降の金融緩和に支えられてきた株高相場が、全く別の性質を持つ新たな局面に突入するということである。ダリオ氏は相場の大きな転換点を予想しているのである。
ダリオ氏は現在のパラダイムを次のように説明する。
2009年から続いている現在のパラダイムは、主に次のような動力によって動いている。つまり、中央銀行が利下げと量的緩和(紙幣を印刷し金融資産を買い入れる)を持続不可能な方法で続けている。
ダリオ氏は中央銀行による金融緩和を持続不可能だと言い切った。投資家は皆、それを経験則として知っている。市場は金融緩和によるバブルとその崩壊を何度も繰り返してきたからである。
しかしながら、それが具体的にどう持続不可能なのかをバブル崩壊の前に言い当てることは簡単ではない。しかしダリオ氏は記事の後半部分で金融緩和がどう立ち行かなくなるのかについて述べているので、投資家にはそこがとても重要になる。
話を進めよう。ダリオ氏は金融緩和の現状についての話を続ける。
こうした緩和は2009年来強力な刺激策であり続け、一方でそれを少しでも引き締め側に動かそうとすれば、それは市場の動揺をもたらしてきた。
例えば去年末の株価下落である。ダリオ氏のファンドはそれを予想して利益を上げたらしい。以下の記事で紹介している。
ダリオ氏は金融緩和についての話を続ける。
また、こうした緩和は資産価格を直接的(実際に資産を買い入れること)、間接的(金利低下が株価収益率を下支えし、金利低下が自社株買いや企業買収、株や不動産などの買いを誘発すること)に支えてきた。
しかしこうした緩和は限界に達しつつある。金利は下限に近づいており、量的緩和にしても市場に既に資金が溢れてしまったために投資の将来の名目・実質リターンや、短期金利を差し引いたリターン(つまりリスクプレミアム)は少なく、量的緩和が経済や市場に与える影響は減少してきているからである。
これこそが緩和限界である。ダリオ氏はより詳しく次のように説明する。
非安全資産(訳注:例えば株や不動産)の期待リターンとリスクプレミアムは安全資産(訳注:預金や短期国債)のリターンに近づいており、前者を買うインセンティブは少なくなってきている。だから資産価格を押し上げるのはますます難しくなっているのである。
もう少し詳しく説明しよう。株価だけを追っていれば、それは無限に上がるようにも見える。しかし株価には本質的には限界がある。投資に対して将来のリターンが何%得られるかということである。
株価が100ドルの株があり、その会社は一株あたり4ドルの利益を上げると予想されているとしよう。そうすれば一株あたりのリターンは4%である。しかし株価が400ドルに上がったとしよう。一株あたり利益が4ドルのまま変わらないとすると、この株に投資をした場合の期待リターンは1%ということになる。
ここで預金金利が2%であればどうだろう? 誰もがこの株に投資するよりは預金をしようと思うだろう。つまり、理論的にはこの株式は400ドルにはならない、そもそも200ドル以上には上がらないのである。それ以上に上がれば、投資家は預金の方を選好するからである。
したがって、量的緩和で資産価格を釣り上げるにも限界があるのである。その結果どうなるか? ダリオ氏は緩和がいずれ効力を失うと予想する。
今後数年の内に中央銀行が経済が弱まった時に経済と市場を支える緩和の余地を失う可能性はかなり高い。
実質金利があまりに低くなり、債権者は債券を持っていてもリターンを得られないと判断してよりよい投資先を探し始める。
ここからダリオ氏は具体的な投資先について話し始める。ダリオ氏の予想が正しければ、どの資産クラスのパフォーマンスが低く、どの資産クラスが良い投資先になるのだろうか?
多くの人は株式や株式のような資産(未公開株や不動産、ベンチャー投資など)がリスク資産として良い投資先だと信じている。
個人的にはこうした資産は良い実質リターンをもたらさないだろうと考えている。そして良いリターンをもたらすのは、現金の価値が目減りし、国内外で政治的な紛争が増大するときに高パフォーマンスを上げる資産、例えばゴールドである。
現在の相場に視点を戻せば、ゴールドは既に今後のアメリカの利下げを予想して暴騰している。
筆者は同じ予想からドル円の空売りをしているが、こちらも利益を上げている。
ダリオ氏が「緩和にも限界がある」と言うとき、一番限界に到達しているのは日銀である。一方でアメリカには利下げのみならず量的緩和を再開する選択肢もある。アメリカの緩和限界はそれからだろう。ドル円の下落予想についてはこれ以上の説明は必要ないのではないか。筆者の相場観はもう長らくそういうものだが、今回の記事を読む限りではダリオ氏の相場観も似通ったもののようである。