3月FOMC会合結果、タカ派にもかかわらずドル安になった理由

アメリカの中央銀行に相当するFed(連邦準備制度)は3月20-21日に金融政策決定会合であるFOMC会合を行い、0.25%の利上げを行った。これでアメリカの政策金利は1.50-1.75%のレンジとなった。

事前に報じていた通り利上げ自体は市場の想定通りだったので、問題はFedの表明した今後の利上げ方針と金融市場の反応ということになる。

タカ派の声明文とドットプロット

先ず、会合後に発表された声明文と、委員がそれぞれ今後の利上げ回数を予想したものをプロットしたいわゆるドットプロットについてはタカ派だった。先ず、声明文にはアメリカの実体経済への強気な見解が明確に記載された。「経済の見通しはここ数ヶ月で強まった」とある。

また、ドットプロットの方は、2018年内の利上げ回数を(今回を含め)4回と予想する委員の数が増えた。3回を予想した委員が6人だったのは前回から変わっていないが、4回を予想する委員が3人から6人となり、4回の利上げの可能性を織り込みつつあった金融市場の動向と足並みを合わせたことになる。これは会合前の記事に書いておいた通りである。

このように、会合結果自体はタカ派だったのだが、金融市場は一風変わった反応を示したようである。

ドル安で反応した金融市場

以上の会合内容に対して、金融市場はドル安で反応した。ユーロドルは3月の前半からややユーロ安ドル高基調にあったが、会合を受けてユーロ高ドル安で反応している。

金相場もゴールド高ドル安で反応している。

金相場の方がやや投機色の強い反応というところだろうか。そこが解釈のポイントとなる。

何故ドル安か?

さて、では何故ドル安で反応したのだろうか? ロイターなど報道各社は色々なことを書いているが、会合結果は上記の通り全くハト派ではない。声明文の経済見通しは明確に強気であったし、ドットプロットも4回の利上げを明確にシグナルする内容にはなっていないが、事前の記事でも書いたように金融市場の織り込みでは「今年3回の利上げがメインシナリオだが、4回の可能性も高まっている」状態で、Fedはそれに足並みを合わせようとしたのだから、ドットプロットで行われた軌道修正は妥当なものである。事前の記事ではこう書いてある。

3回の利上げがある確率がもっとも高くなってはいるが、その次は2回ではなく4回であり、珍しいことにFedの自己申告よりもタカ派よりの織り込みとなっている。

さて、こうなればFedとしては市場に合わせてよりタカ派に軌道修正するインセンティブが生まれてくる。

だから、「会合結果がハト派だからドル安になった」というメディアの通説は正しくない。この市場の反応には読み取るべきことが他にある。

投機的な流動性相場

それが何かと言えば、市場が金融政策そのものを恐れているということである。そしてそれは市場がより投機的になっていることを意味している。

2017年終盤から世界の金融市場が投機的になっていることについてはお伝えしている。これまで重要だった実質金利などのファンダメンタルズが為替相場で無視されていたことは以下の記事で説明している。

そしてその本質は、低金利相場に慣れすぎてしまった投資家の楽観にある。アメリカが強力な金融引き締めを行っていても金融市場は大丈夫ではないのか、中央銀行が資金を吸い上げている状態でも株高は続くのではないか、という投資家の楽観が、剥がれかけては復活する状態が繰り返されているのである。

そしてFOMC会合はまさに、その楽観が剥がれる可能性のあるイベントだった。それを盲目的に恐れていた投資家は、会合結果がどうなるか、どうなったかを精査することなく、会合前にポジションを抑え、会合結果がそれほど予想外なタカ派にならなかったことを確認すると、ポジションを戻したのだろう。

結論

しかし、市場が会合そのものを正確に精査し判断出来ていないことは、この反応から明らかである。一方で、投機的になりがちな為替相場を尻目に、比較的投機的になりづらい債券市場は比較的まともな反応をしている。例えば長期金利はやはりタカ派側に動いている。

この意味から言っても、市場はファンダメンタルズを冷静に消化する能力を失いつつある。為替相場は引き続き正気を失っている。金相場は尚更である。

一方で、株式市場は楽観が剥がれかかっている。為替相場は楽観側に動いたにもかかわらず、米国株は上昇しなかった。

この相場をどう判断すべきか? 以前の記事の以下の言葉をもう一度思い出す必要があるだろう。

この状況で投資家が甘く見るべきではないものが2つある。1つは長期金利の上昇であり、もう1つは市場の楽観である。

特に市場の楽観は甘く見るべきではない。著名ファンドマネージャーがバブルを空売りしようとしてタイミングを誤り、踏み上げられた例はいくらでもある。プロ中のプロでもタイミングは非常に難しいのである。

一方で、2008年に株価と不動産価格のピークがずれたように、バブル崩壊のタイミングは銘柄や指標によって数ヶ月分ずれるのが普通である。

バブル崩壊においても、すべての銘柄が同時に下落するわけではない。今回、一番最初に下落が始まったのは筆者が空売りしているジャンク債だが、為替相場と株式市場も楽観への追従の度合いに差が出てきているように思える。読者がどういうポジションを取っているかは分からないが、少なくとも筆者はこの状況で株式を買い持ちにすることは考えられない。仮にバブルが続くとしてもである。

また、今回の利上げはFOMCの委員全員の賛成によって行われた。前回の記事ではハト派のカシュカリ氏とエヴァンズ氏のうち、カシュカリ氏のみが今年の投票権を持っていないと記載したが、投票権を持っていないのはカシュカリ氏とエヴァンズ氏の両方だったので、誤りを訂正してお詫びしたい。今年のFOMCはクォールズ氏など共和党の送り込んだタカ派が多くなっており、利上げ継続の後押しとなっている様子である。