これまで書いてきた通り、ここでは昨年から金融引き締め相場におけるジャンク債の下落を予想し、そして2月の世界同時株安でそれは的中した。
しかし筆者の他にジャンク債の下落を的中させた人物がいる。かつてジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げた投資家ジム・ロジャーズ氏である。
ロジャーズ氏のジャンク債暴落予想
アメリカの膨大な政府債務と中央銀行による量的緩和バブルを懸念していたロジャーズ氏は、2015年12月にジャンク債の空売りを推奨した。
しかし、その後量的緩和バブルは崩壊せず、ジャンク債はむしろ上がり続けた。ジャンク債ETFの長期チャートは次のようになっている。
ロジャーズ氏が空売りを推奨した2015年末がほぼ底値である。ある意味見事なタイミングと言える。
さて、その後いつまで経っても暴落しないジャンク債にしびれを切らしたForbesの記者がロジャーズ氏にこう聞いた。
2015年12月に、あなたはSJBというティッカーシンボルのハイイールド債空売りETFを推奨しました。わたしは普段空売りは行わないのですが、その時はあなたの推奨が理にかなっていると思ったのです。しかし、このポジションはわたしが買った時から10%ほど下落しています。多くの視聴者もこの銘柄に興味を持っていると思うので、このポジションについての今の意見を聞かせてください。
ジャンク債空売りETFとは、つまりジャンク債ETFと上下逆の動きをするETFのことで、ジャンク債が下がれば下がるほど価値が上がるETFということになる。空売りに慣れていない個人投資家のためにロジャーズ氏はあえてこの空売りETF(NYSEARCA:SJB)を推奨したのだろう。
記者の質問にロジャーズ氏はこう答えた。
市場のタイミングについてはわたしに聞かないでくれ。わたしがこのポジションを持っているのは、ジャンク債市場がいつか暴落すると知っているからだが、今のところはあなたと一緒に損失を垂れ流している。
「ジャンク債市場がいつか暴落すると知っているが、タイミングは知らない」というのはまさに真理である。ロジャーズ氏の分析は正しかったが、タイミングは完全に間違っていた。そしてロジャーズ氏は自分でそれを知っていた。
世界最高峰のアナリスト、ロジャーズ氏
ロジャーズ氏は「世界最悪の短期トレーダー」を自称している。本人も理解している通り、彼はトレーダーではなくアナリストなのである。
両方を自分でやらなければならない個人投資家の読者にはこの違いが分かりにくいだろうが、金融業界ではこの2つは別の職業である。アナリストが市場分析し、トレーダーが実際に取引をする。クォンタム・ファンドではソロス氏がトレーダーで、ロジャーズ氏がアナリストだったのである。この役割分担についてはロジャーズ氏自身が以前語っている。
しかし、アナリストはトレーダーなしには投資のタイミングを決めることが出来ない。結果、ロジャーズ氏は完全に正しかった自分の分析に基づいてジャンク債空売りETF(ジャンク債下落で株価上昇)を購入した。結果は以下の通りである。
分析は完全に正しいにも関わらず大損である。あまりに惜しい。この空売りETFは最近になって少し上がっているが、それでも過去の損失を取り戻すことは出来ない。
何故か? それは債券の空売りにはコストがかかるからである。株式の売り方が買い方に配当を支払うように、債券の売り方も買い方に金利を支払わなければならない。そしてジャンク債とは、リスクが高い代わりに金利も高い債券なのである。
しかも空売りETFは一般的に維持費が高い。普通に空売りする場合損失は青天井だが、「空売りを買い持ち」出来れば投資分以上に損をすることはない。この変換には高いコストがかかり、このETFを保有し続ければ、投資家は年間5%の高金利に加えて高い運用コストを日々払い続けることになる。その結果が上記の暴落である。空売りETFは少なくとも長期保有には向かないのである。
しかし、ジャンク債を単に空売りしても金利分はしっかり払い続けることになる。だからジャンク債空売りはタイミングが非常に重要なのである。
投資のタイミング
ちなみに、そのタイミングについては以前の記事でロジャーズ氏に代わりこう書いておいた。
タイミングの分からないロジャーズ氏に助け舟を出しておけば、ジャンク債が崩壊するのは、トランプ政権がインフラ投資に本腰を入れ、国債の発行額を増やし、Fed(連邦準備制度)が金融引き締めを強行する場合である。
これは時期としては2017年末から2018年に掛けてのことであり、トランプ政権とFedの動向によって前後することもあるだろう。この辺りについては逐次報じてゆく。
そして今は2018年2月である。記事を書いたのは2017年6月、筆者が実際に空売りを始める半年近く前の話である。ジャンク債空売りは11月に開始している。
いつものことだが、市場が急落してからわたしのもとに今後の動向について聞きに来る人々は多い。しかし筆者はかなり前からそのシナリオについて準備しているのである。2016年の金相場高騰の時も2015年4月にそのシナリオに言及し、2015年12月にゴールドの買いを開始した。
- 金はいつ買うべきか?: 2015年以降の金融市場暴落を逃れるために (2015/4/14)
- 2016年金価格の推移予想: 金は暴騰するがいつ買うべきか? 利上げの影響と米国経済の動向 (2015/12/26)
2015年末は金相場の底値となった。
因みにゴールドのポジションは2016年11月の急落前に売却している。
タイミングは非常に重要である。そして出来れば、世間で市場の混乱が話題になる前にわたしの話を聞いてほしいものである。今後もマクロの経済トレンドを事前に説明してゆく。
結論
ロジャーズ氏は非常に優れたアナリストである。それは以前のパートナーであるソロス氏も認めるところであり、彼はロジャーズ氏について以前こう語っていた。
その後、彼がそれほど偉大な投資家になったとは思わないが、しかし彼は非常に優れたアナリストだ。
これがすべてを語っているだろう。
ちなみに、優れたアナリストであり「世界最悪の短期トレーダー」でもあるロジャーズ氏は、Bloombergのインタビュー(原文英語)で現在の世界同時株安についてこう語っている。
市場のタイミングについては本当に下手なのだが、恐らくは株価の弱気相場は次の利上げがある3月まで続き、その後市場は上がるのではないかと思っている。
ロジャーズ氏のコメントをどう解釈し、どう利用するかは読者次第である。今後も世界の金融市場の動向を伝えてゆく。