2018年の米国株の推移予想は微妙である。例えば著名債券投資家のガントラック氏は下落を予想しているが、今の市場には調整以上の暴落になる要因がないというのも確かである。
しかし、市場をセクターごとに分けて見れば、米国株全体よりは分かりやすい展開になるはずであり、個人的には2018年はセクターごとにパフォーマンスが分かれる年になると予想している。
金融引き締めと株式市場
さて、周知の通り、アメリカの金融政策を担うFed(連邦準備制度)は、利上げとバランスシート縮小という金融引き締めを行っている。それに伴い、最近になってようやく長期金利が上がり始めた。
金利上昇は株式市場にはネガティブだが、それでも米国株は上がり続けている。以下は株価指数S&P 500のチャートである。
金融引き締めと銀行株
しかし問題はセクターごとの内訳である。
先ず、金利上昇局面で好調となる株式市場のセクターは、Citibank (NYSE:C)などの銀行株である。銀行は基本的には金利収入に頼っているため、金利上昇は収益増となる。銀行株を含む金融株ETFのチャートは非常に好調である。
金融引き締めと金利敏感株
金融引き締め局面で銀行株が好調であるところまでは良いとしよう。しかし、では高金利に弱い株はどうだろうか?
例えば個人投資家に人気の配当株である。景気によって売上が左右されにくく、安定して長年投資家に配当を払い続けているProcter & Gamble (NYSE:PG)やEli Lilly (NYSE:LLY)などの株式は、国債の金利が上がれば投資家が国債に乗り換えやすい。以下はProcter & Gambleの株価であり、やはり他のセクターのようには上がっていない。
また、Facebook (NASDAQ:FB)やNetflix (NASDAQ:NFLX)などのハイテク株を含むグロース株、つまり売上高成長率の高いセクターは、やはり低金利の環境で盛り上がりやすく、高金利は向かい風であると言える。以下はFacebookのチャートである。
やはり、銀行株ほどは上がっていないようである。
また、この他には金利高にもかかわらず、ショベルやダンプトラックなどを販売するCaterpillar (NYSE:CAT)などが好調である。
建設機械をグローバルに販売するCaterpillarは売上高に占める中国の割合が大きく、米国株でありながら新興国株のような値動きをする銘柄である。
「アメリカがくしゃみをすると新興国が風邪をひく」の言葉通り、アメリカの金利高局面では新興国から資金が流出することが多いが、現在の市場では新興国株は好調である。この辺りはやはり世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏が正しかった。
このように、米国市場の値動きを眺めるだけでも、金融市場が世界の市場をどのように評価しているのを読み取ることができる。
2018年の米国株の推移予想
さて、2018年の米国株はどうなるだろうか? ガントラック氏の指摘した通り、法人減税を既に完全に織り込んだ2018年の米国株は上昇のための材料に乏しく、2017年のようにすべてのセクターが上がる展開は考えにくい。トランプ政権がインフラ投資を行う可能性はあるが、財政赤字を嫌う与党共和党が難色を示す可能性が高く、税制改革以上に協議は難航するだろう。
各セクターについては、先ずこれまでも説明している通り、金融引き締めのトレンドは少なくとも夏頃までは崩れないだろう。アメリカ経済はそれほど好調である。
つまり、銀行株はともかく、配当株やハイテク株には厳しい相場環境が継続することになる。しかし金利がある程度上がれば、後はもう下がるしかない。そうなれば、セクターごとの明暗は一転することになるだろう。この転換点については以下の記事で解説している。
この記事で説明した通り、引き締めから緩和への転換点は短期国債の金利で明確に計測することができる。また、金融引き締めで米国株が暴落するのではないかと懸念している人は、以下の記事を参考にしてほしい。
とりあえず2018年前半に米国株投資家が気にすべきことはこの辺りではないか。筆者は米国株にはほぼ触れず、淡々とジャンク債を空売りしてゆく。