ドナルド・トランプ氏が2016年11月にアメリカ大統領選挙で勝利して以来、米国株は上がり、金利は上昇した。米国株のみならず日本株など他の資産クラスも上がったが、トランプ相場以降の値動きの中で最も重要なものを1つ挙げるとすればどれだろうか?
米国株と金利以上に上がったもの
先ず、米国株は文句なしに上昇した。2016年11月から30%程度も上昇している。
ただ、法人減税で株価が上がること自体に驚きはない。減税分はそのまま企業利益になるからである。
多くの人が株高に懐疑的だったトランプ相場初期に、世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏がこの点を指摘し、ここでも記事に取り上げた。
また、長期金利も上昇したが、トランプ政権の経済政策がアメリカ経済を支える分、中央銀行が利上げを進めても金融市場と実体経済は耐えられると判断されたためで、トランプ政権の経済政策にどれほどの効果があるかは異論があるが、しかしこれも自然な流れとは言える。
しかし、2016年11月を起点に上昇を開始し、しかも米国株や金利の上昇が比較にならないほど値上がりしたものがある。それは何か? それは銅価格である。
銅価格はおよそ50%も上昇しており、しかもそこには大きな意味がある。
銅価格上昇の意味するもの
この銅価格上昇は、単にトランプ相場で上がったものの1つとして取り上げたいのではない。投資家はそれ以上に、銅価格上昇の意味を考える必要がある。
上で少し述べたように、トランプ政権の政策で米国株やアメリカの金利が上昇するのは当たり前のことである。しかし、主に建築資材などに使われる銅の価格はアメリカ経済ではなく中国など新興国の景気に左右されるものであり、世界経済の停滞を織り込んで長期的な下落トレンドに入っていた銅価格が、トランプ相場を起点に大底を脱して、しかも50%も上昇したことは驚きと言うべきだろう。
つまり、こうした市場の動きは、市場が単に「トランプ政権誕生でアメリカ経済が復活する」と考えただけではなく、「トランプ政権誕生で世界経済が復活する」ことを織り込んでいることになるのである。これは凄いことではないだろうか?
ここまで考えて思い出されるのは、トランプ政権誕生の後すぐに世界経済に強気転換し、景気停滞で値上がりするゴールドをすべて売り払ったドラッケンミラー氏である。彼は大統領選挙の直後に次のように述べていた。
選挙の夜に金をすべて売却した。ここ数年金を持ち続けたすべての理由が、わたしにとってはもう過去のものになりつつある。アメリカに限らず世界的にそうなのだ。例えば(イギリス首相の)テリーザ・メイ氏だ。こうした潮流が世界的な現象となっている。残りは偉大なるマリオ・ドラギ司教とEU官僚たちだけだ。しかしそれも変わるだろう。彼らはいずれ引きずり降ろされ、泣きわめくことになる。
トランプ氏の勝利後すぐにアメリカだけではなく世界経済の強気シナリオを想定していたドラッケンミラー氏の先見の明には脱帽させられる。
銅価格上昇の意味するもの
さて、投資家に出来ることは、2016年のドラッケンミラー氏のコメントに脱帽することだけではない。問題は、アメリカが利上げとマネタリーベース縮小によって市場から資金を引き上げているにもかかわらず、米国株も先進国株も上昇しており、しかも新興国の先行きを占う銅価格は非常に好調で、更には新興国通貨も下落していないということである。以下はドル元のチャートで、下方向がドル安元高である。
以下はドルルーブルのチャートで、同様のトレンドになっている。
つまり、アメリカの金融引き締めにもかかわらず、新興国から資金は流出せず、株式市場も下落していないということになる。
しかし、アメリカの中央銀行は実際に資金を市場から引き揚げているため、世界の金融市場の中で何処かの市場は必ず下落しなければならない。それは何処か? 筆者の予想では、それはジャンク債である。
新興国から資金が引き揚げられていないという事実は、ジャンク債の下落予想をより論拠あるものにする。何度も言うように、全体の資金量が減少する以上、何処かからは必ず資金が引き揚げられなければならないからである。
因みにロシアルーブルが予想に反して下がっていないために、ジャンク債空売りと合わせて行っていたロシア株投資が予想外に好調である。ドルに対するルーブルの値上がりと合わせて考えるために、アメリカに上場するロシア株ETFのチャートを提示しよう。
しかし予想外の利益は泡銭と同じである。ただ、それでもポジションはこのまま継続してゆく。現在組んでいるポートフォリオは、これで正しいからである。