ジム・ロジャーズ氏: 金相場はまだ十分に絶望していない

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げた著名投資家のジム・ロジャーズ氏が、Forbesによるインタビュー(原文英語)で金相場について語っている。その切り口がいかにもロジャーズ氏らしいのでここに紹介したい。

暴騰し暴落した金価格

金価格は2008年の金融危機でアメリカが量的緩和を開始して以来、先ず金融緩和を好感して倍以上に暴騰し、そしてアメリカが金融緩和を終了すると暴落した。

1,800ドルから1,000ドル近くまで下落した金価格だが、ロジャーズ氏はまだ買い場ではないと言う。彼はゴールドに投資する基準について以下のように語っている。

価格が重要な決定要因だ。あるいは時期だ。もし今が2019年だったら、急いで金を買っているかもしれない。しかし金相場はまだ十分な調整を経ていない。

ロジャーズ氏は以前より先ずドルがバブルになると主張している。ロジャーズ氏はドルを保有しており、そのドルがバブルになる時、ゴールドが暴落するので、その時にはドルからゴールドに乗り換えると言っている。「今が2019年だったら」というのは、2019年であればその転換点に近づいているという意味だろう。

さて、逆張り投資家として知られるロジャーズ氏は、「十分な調整」について以下のように掘り下げる。彼にとって、40%程度の下落ではまだ足りないようである。

いまだ多くの買い方がいて、ゴールドを投資対象として好んでいる。人々が、もう二度とゴールドに投資したりしない、と言うとき、それがゴールドに投資すべき時期なのだ。これは多くの事柄についての真実だ。金を含めて、どの投資対象であれ、すべての人がそれを窓から放り投げているときこそが通常買い場となる。現状では、まだあまりに多くの人々がゴールドを好んでいる。

ロジャーズ氏が好むのは、まだゴールドを買おうと底値を狙っている投資家が居る現状の金相場のようなものではなく、例えば数年前のロシア株のように、エネルギー価格の暴落と西側諸国の経済制裁に追い込まれ、大半の投資家が市場から逃げ出していたような状況を指すのである。ロシア投資はその後ロジャーズ氏に大きな利益を与えている。

これまで無数のバブルと暴落を眼にしてきたロジャーズ氏にとって、40%程度の下落ではまだまだ絶望が足りないということなのである。

ファンダメンタルズか、心理的要因か

インタビューでは、ロジャーズ氏は金相場のファンダメンタルズに一切言及せず、投資家が十分に弱気ではないという心理的要因だけを述べている。

本来、金価格にはインフレとの関係や実質金利との反相関など、ファンダメンタルズから適正価格を割り出す方法が存在する。以下の記事で説明した通りである。

優れたアナリストであるロジャーズ氏は、勿論ファンダメンタルズ的な要因を否定しない。彼は以下のように述べている。

投資とは定量的な手法と直観的な手法の両方なのだ。もっと単純であれば良かったのかもしれないが、実際には投資にはあらゆるものが混ざっている。

ただ、「世界最悪の短期トレーダー」を自称するロジャーズ氏が売買のタイミングを決める時に頼るのは、これ以上ないほどに市場が弱気になっているということなのである。

クォンタム・ファンドでトレードをソロス氏に任せていたロジャーズ氏は、自分ではタイミングの決定が出来ないことを認めている。

だから、これ以上弱気になれないほど市場が弱気になるのを待ってからようやく重い腰を上げることで、失敗のリスクを最小限に留めているのである。彼は『マーケットの魔術師』におけるインタビューのなかで、この方針について次のように語っている。

私は道ばたにカネが落ちているまで待っている。私はただそこへ行って、拾い上げるだけだ。それまで何もしない。

「樽の中の魚を釣る」という格言のような状況を待っているんだ。

最良でない投資対象に勇み足で投資をする投資家は多い。実際には投資家はそれほど魅力的ではない投資対象に投資することを避けることが出来るのに、何もしないという選択が多くの投資家にとって難しいのである。

例えば、今ドル円に投資をしている人が居て、アベノミクス開始時と同じ規模のポジションを取っているとすれば、何かがおかしいと気付いた方がいい。あなたは当時のドル円ほどに魅力のある資産が見つけられないために、妥協の産物に同じ額を投資しているのである。

また、ロジャーズ氏の逆張り投資は彼の人生観にも依拠しているようである。彼は他人の頭を信じていない。優秀な人間は、皆そのようなものではないか。

わたしが学んだのは、他人があなたを疑い、馬鹿にすればするほど、それが何であれあなたは恐らく正しい位置にいるということだ。あなたが変化に気付き、その変化が人々から無視された割安なものである場合、それは良い投資なのだ。


マーケットの魔術師