サマーズ氏: ドルと米国株と米国債のトリプル安、アメリカから資金が流出している

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューでトランプ政権の関税がきっかけとなった最近の株価と米国債の下落について語っている。

米国株と米国債の同時下落

最近の株価急落はトランプ大統領が関税を延期したことで、一旦落ち着いてはいる。S&P 500のチャートは次のように推移している。

しかし下落の最中に金融の専門家なら目を見張るようなことが起こった。米国株と米国債の同時下落である。

最終的にトランプ政権が関税を延期したのは、株価が下落したからではなく米国債が下落したからだった。

多くの個人投資家は株価がどうなったかだけを気にしているかもしれないが、金融業界の人間は株価と米国債が同時下落したという事実を非常に警戒している。

アメリカからの資金逃避

そしてサマーズ氏も勿論その1人である。サマーズ氏は年始からの金融市場の動きを次のように評している。

金融の観点から言えば、トランプ大統領は新しいことをすると約束して、今やアメリカは新しいものを手にした。アメリカからの資金逃避トレードだ。

それは大統領がそれなりの結果を伴う新しいことをやったときによくある市場の動きだ。

なかなか強烈な皮肉である。サマーズ氏は具体的には次のように述べている。

起こっていることは4つある。株価の下落、国債の下落、ドルの下落、そしてゴールドの上昇だ。

その意味は明らかだ。ドル資産に対する恐怖、外国人がアメリカに資金を置きたいと思わなくなり、アメリカ人は国外に資金を逃がそうとする。

本来、株価が下落すればリスクを避けたい投資家は無リスク資産とされる国債を買うため、金融危機においても国債だけは上昇するのが普通である。2008年のリーマンショックでも実際そのようになった。

だが今回、株安の最中に米国債が下がり、同じタイミングでドルが下がった。国内の投資家だけで完結する株安ならばリスク回避で米国債が買われるが、国外から資金が引き上げられるとこういう動きになる。

アメリカの発展途上国化

金融危機で国外から資金が引き上げられる国のことを通常何と呼ぶか。サマーズ氏は次のように続けている。

カーター政権の頃には多少似たようなことがあったが、本来アメリカで見られる動きではない。それは途上国の市場でよくあることだ。

発展途上国はそういうやり方で自滅する。アルゼンチンで何度もあったし、エルドアン大統領のトルコも近年同じことを経験している。

ちなみにアルゼンチンは元々日本よりも1人当たりGDPが高い先進国だったが、金融緩和で途上国に没落したのである。

逆に、何故先進国でそうしたことが起こらないかと言えば、外国資金に影響されないか、むしろ国外から資金が流入してくるからである。

そうした国の最たるものが、基軸通貨ドルを持つ覇権国家アメリカだったはずだ。基軸通貨の定義は、世界で一番資金が流入する通貨のことだから、それは定義上明らかだ。

そして逆に言えば、国外への資金逃避が問題になり始めている今の状況は、ドルの基軸通貨としてのステータスが失われかけていることを意味しているのである。

結論

サマーズ氏は次のように述べている。

アメリカで同じことが普通に起きるとはほとんどの人が思っていなかっただろう。

だが予想していた人物がいた。コロナ後に現金給付が決まった時点で『世界秩序の変化に対処するための原則』を書き始めたレイ・ダリオ氏である。

ダリオ氏はこの本で、歴史上基軸通貨は永遠に基軸通貨であるのではなく、オランダからイギリス、イギリスからアメリカへと移り変わってきたこと、そして今のドルの繁栄も基軸通貨のサイクル終盤にあることなどを説明している。

コロナ直後、インフレになる前から書き始められたこの本は、その後のインフレ、そして現在のドル資産からの資金逃避と、書かれている予想が現状ほぼそのまま的中している。

サマーズ氏はトランプ政権の関税政策を批判しているが、本当は現金給付があった時点でここまでの動きは決定していたのである。そしてこれからの動きも、大枠は『世界秩序の変化に対処するための原則』のダリオ氏の予想から外れることはないだろうと思う。


世界秩序の変化に対処するための原則