毎四半期恒例、機関投資家のポートフォリオを開示するForm 13Fが公開されたので、著名ヘッジファンドマネージャーのジョージ・ソロス氏のポジションを見てゆきたい。
今回発表されたのは2017年3月末時点でのソロス氏のポジションである。以下の記事で前回報じた2016年末のポジションでは、ソロス氏が個別銘柄ではトランプ銘柄に投資しながら米国株全体は空売りしていたことを報じたが、その後どうなっただろうか?
米国株空売り拡大
先ず、ソロス氏は米国株空売りのポジションを増やしたようである。Form 13Fは基本的に買いポジションの開示なので、純粋な信用売りポジションそのものは公開されないが、株価が下落すれば利益になるプット・オプションの買いは公開される。ソロス氏の開示では、米国株指数ETFのプットの買いが増えている。ソロス氏が空売りを増やしたのは以下の二つの株価指数ETFであり、ポジションの金額(オプションの原資産となっている株式の金額)は以下の通り増えている。
- S&P 500: 1.1億ドル -> 3億ドル
- Russell 2000: 3.3億ドル -> 4.6億ドル
S&P 500はアメリカの主要な株価指数であり、Russell 2000はアメリカの小型株指数である。つまり、ソロス氏は米国株が下落する場合、小型株の方が下落が大きいと考えていることになる。
ソロス氏は2016年の初めから米国株をずっと空売りしているようだが、その間米国株は上昇し続けている。
S&P 500のチャートは以下のようになっている。
個別株
一方で、個別株では昨年末から買っていたトランプ銘柄をほぼそのまま維持している。ソロス氏は、アメリカのインターネットプロバイダ企業Liberty Broadband Corp (NASDAQ:LBRDA)の株式を6.8億ドル保有しており、年末の6.2億ドルから株価上昇分やや増加というところである。
アメリカのインターネットプロバイダについてはオバマ政権が課した「ネット中立性」規制が重荷になっており、トランプ政権がこれを規制緩和しようとしている。詳細については以下の記事に詳しい。
政治活動では反トランプのソロス氏も、相場では乗れるものに乗るということである。
他の個別銘柄としてはFireEyeというサイバーセキュリティ企業を2.5億ドル保有しており、こちらは5月の初めに発表された決算が良かったこと、そして最近世界中で被害が確認されたWannaCryというランサムウェア(身代金要求マルウェア)によってサイバーセキュリティの需要が高まるという思惑から株価が上昇している。
結論
ソロス氏はもう長らく米国株の急落を警戒し続けているようだが、この空売りは今度こそ報われるだろうか? トランプ相場の初期の上げ相場を空売りしたのは、感情的な反トランプ運動と客観的な投資判断を混同した初歩的な失敗だったが、今回は少なくとも昨年末よりは分があると言うべきだろう。
トランプ政権はますます反対勢力の抵抗にあっており、このままでは市場が期待している経済政策は当分実行されず、既に減速の兆しが見られる実体経済だけが着実に減速してゆくことになる。
そうなれば、レーガノミクス時に上げ相場の前に起こった米国株の暴落が、トランプ政権にもふりかかる可能性はある。
また、サイバーセキュリティという投資テーマはなかなかに面白い。現代はハッカー一人がミサイル一発よりも国家にとって脅威となる時代であり、サイバーセキュリティという分野はこれまでの重要さを超えて良くも悪くも発展してゆくことになるだろう。