レイ・ダリオ氏: 米国のインフレ連動国債は自分が作った、インフレヘッジのためにもっと使われるべき

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)の内容を紹介している。

今回は、金融市場における金利の重要性と、アメリカのインフレ連動債について語っている部分を紹介したい。

金利の重要性

ダリオ氏や筆者のようなグローバルマクロ戦略の投資家がいつも言うことがある。金融市場を知るためには、まず金利を理解しなければならない。

何故ならば、ダリオ氏もいつも言っているが、国債の金利がすべての資産価格の基礎になるからだ。国債の金利が十分高ければ、人々は国債を買っているだけで十分な金利収入が得られるので、誰もリスクの高い不動産や株式には投資しなくなるだろう。

それが金利上昇でリスク資産が下落する理由である。逆に国債の金利が低ければ、投資家は不動産や株式に手を出さなければ十分なリターンを得られなくなる。

だから金利は重要である。国債の金利が上下するごとに、株価や不動産価格などが変動する。

実質金利

だがダリオ氏は次のように言っている。

金利は重要だが、実質金利は更に重要だ。富の貯蔵手段として国債が魅力的かどうかを教えてくれるからだ。

実質金利とは、金利からインフレ率を引いたものである。

何故それが重要かと言えば、金利が高くともインフレ率がそれより高ければ、国債の保有者は得をしたとは言えなくなるからである。

例えば金利が10%でも、インフレ率が50%なら、1年後には40%分あなたの資産の実質的価値は減っていることになる。

だからダリオ氏は次のように言う。

わたしの意見では、国債の実質利回りは金融市場でもっとも重要な数字だ。何故ならば、それはあなたが自分の富に対して確かに得られる実質のリターンを示しているからだ。

単に金利を見るのではなく、インフレ率を差し引いた実質金利こそが国債に対する本当のリターンであり、インフレで紙幣の価値が目減りすることを繰り返し警告しているダリオ氏が実質金利の重要性を強調するのは当然だろう。

だから国債の実質金利こそがすべての金融市場の基盤である。そしてそれ以上のリターンをどれだけ人々が求めるかによって、不動産や株式などの価格が決まってゆく。

ダリオ氏は次のように述べている。

国債の実質金利は金融市場全体の基礎となっている。その数字は、それ以上のリターンを得るためには頭を使う必要があることを意味している。

実質金利とダリオ氏

さて、ここまではグローバルマクロ戦略のヘッジファンドマネージャーならば、誰でも同じことを言うだろう。実質金利は金融市場でもっとも重要な数字である。

だがダリオ氏と実質金利の付き合いは単にそれだけのものではないらしい。ダリオ氏は次のように述べている。

10年物国債の実質金利とは長い付き合いだ。

まだアメリカにインフレ連動国債がなかった時、わたしは何年もの間、アメリカ以外のインフレ連動債に投資し、かつ為替リスクをヘッジすることによってアメリカのインフレ連動債に相当するものを合成していた。

10年物国債の実質金利とは言うが、10年後にリターンがどうなっているかが重要なのだから、実質金利を算出するためには、今後10年のインフレ率が分からなければ、10年物国債の実質金利は分からない。

今後10年のインフレ率の市場予想を反映して金利が決まるように設計されたものがインフレ連動米国債であり、国債の実質金利と言えばこの連動債の金利が一般に使われている。筆者がグラフを示すときもその数字である。

低リスクの資産運用法

だがアメリカのインフレ連動債は30年ほど前に作られたものであり、それより前にはそんな便利なものはアメリカにはなかった。

だからダリオ氏は他国のインフレ連動債を使って自分でそれを合成した。ダリオ氏は次のように続けている。

それが生まれたのは、偉大な投資家であるロックフェラー財団のデイヴィッド・ホワイト氏が、年に資産の5%を寄付しなければならないので、そのお金を捻出するために一番確かな投資のやり方を教えてほしいとわたしに頼んできたからだ。

確実な年5%のリターンとは、ダリオ氏ほどのファンドマネージャーにもなかなか難問だったはずである。この難問に答えるため、ダリオ氏は次の方法を思いついた。

だからわたしは海外のインフレ連動債を為替ヘッジし、それにレバレッジをかけることを思いついた。

この方法は今でもプライベートバンカーなどが好んでいる方法である。外国の債券を為替ヘッジして、可能ならばレバレッジを掛けることによって、限りなくリスクの低い投資商品を合成する。

ダリオ氏はそれをどうやら初めに思いついたらしい。それ以来、Bridgewaterはインフレ連動債の専門家として名前が知られるようになったという。

インフレ連動国債の誕生

このように、アメリカにインフレ連動国債が出来る前までは、インフレリスクをヘッジして金利収入を得ることはなかなか大変だったらしい。

投資家にとっては、参考にする実質金利のグラフも存在しない。今でもインフレ連動国債の誕生前の実質金利のデータが欲しい時、代わりにどのデータを使えば適切かはなかなか難しい問題である。実際のインフレ率では10年物国債の金利と時間が合わない。

だから、誰かは知らないがアメリカのインフレ連動国債を作った人物に感謝しようではないか。ダリオ氏は次のように言っている。

Bridgewaterはそれによって世界最大のインフレ連動債運用会社になった。

そしてラリー・サマーズ氏が財務長官になった時、インフレ連動米国債(TIPS)の設計をやるよう頼まれたのだ。

あなただったのか。

結論

ということで、アメリカのインフレ連動国債を作ったのはダリオ氏であるらしい。筆者はダリオ氏に感謝すべきだろう。

また、ダリオ氏は作成者として次のように言っている。

世界中に存在するインフレ連動債は極めて過小評価されている。そのポテンシャルを考えればもっと使われるべきだと思う。

読者もインフレ連動債を指標として監視するべきだし、富の貯蔵手段としても使うべきだ。

インフレヘッジの資産としては、何よりもまずゴールドが上がるだろう。

ビットコインなど暗号通貨を挙げる人もいるかもしれない。

だが見落とされているものがある。インフレ連動国債である。

現状、アメリカのインフレ連動国債は今後のインフレ率に加えて更に2%の金利が保証されている。インフレが悪化すると予想する人にとっては悪くないリターンであるはずである。

インフレ連動債はETFにもなっている。ティッカーシンボルはTIPである。

ダリオ氏は『世界秩序の変化に対処するための原則』で、先進国の膨張した債務は最終的にはインフレで解決されるほかないと予想している。

インフレヘッジは必要だろう。読者は何を選ぶだろうか。


世界秩序の変化に対処するための原則