ヘイコック氏: ゴールドはまだまだ過小評価されている、本格的な金価格上昇はここから

引き続きVon Greyerzのパートナーであるジョニー・ヘイコック氏の自社配信動画でのインタビューである。

今回は金相場の需要と供給について話している部分を紹介したい。

金価格の上昇

これまでの記事では、ヘイコック氏は米国債と株式がインフレ相場ではパフォーマンスが悪いこと、インフレ相場で上がる資産はゴールドであることを述べていた。

ヘイコック氏は次のように言っている。

ゴールドはますます重要になってきている。

実際、ヘイコック氏は以下の記事で、2000年以後のゴールドのパフォーマンスがS&P 500を大きく上回っていることを指摘していた。

ゴールドは25年で10倍になっている。インフレになる前からゴールドは優れた資産クラスなのである。

ゴールドと紙幣の関係

だがヘイコック氏によれば、ゴールドの上げ相場は始まったばかりに過ぎない。

ヘイコック氏は次のように述べている。

ほとんどの人は金価格を見て、「250ドルから2,900ドルまで上がった、乗り遅れてしまったなあ」と言うだろう。

だがそれは間違った見方だ。

ゴールドはマネーサプライとの比較で考えなければならない。

マネーサプライとは、市場に流通する貨幣の量のことである。

ヘイコック氏だけでなく、2025年に入って著名なヘッジファンドマネージャーたちが指摘しているのは、紙幣と国債のバブルが膨張しすぎたということである。

紙幣とは、金本位制の時代には人々が中央銀行に預けていたゴールドの預かり証のことだったのだが、政府が預かっていたゴールドを返さないと宣言した1971年のニクソンショックの時点で、紙幣の価値はただの紙切れになっていた。

だが何故かは分からないが人々はただの紙切れとなった紙幣を後生大事に財布に入れている。だが長期的に見ればインフレによって紙幣の価値は年々目減りしている。

それが紙幣という史上最大のバブル(どう考えてもチューリップ以上だろう)の長い崩壊過程である。何に使えるわけでもなくなった紙幣に価値がないと人々が気付くまでに50年以上かかるわけである。

そしてドル建ての金価格とは、価値が薄まっているドルを基準に金価格を計ったものである。だからドルがどれだけ薄まったのかを計算すれば、より現実の姿に近い金価格が浮かび上がってくる。

ヘイコック氏は次のように計算している。

アメリカのマネーサプライで調整した現在の金価格は、1980年のピークよりも75%低い。

ゴールドと国債の関係

また、もう1つのバブルは国債である。債券市場は為替市場に次ぐ巨大な市場だが、債券の主たるものは国債であり、政府がそれだけ大量の国債を発行してきたということを意味している。

だが債券の専門家であるジェフリー・ガンドラック氏などは、ここまで膨らんだ国債がインフレかデフォルト以外の方法で返済されることはないと指摘している。

しかし世界中の資産のほとんどは国債なのである。以前までは、主な資産クラスと言えばゴールドだった。ヘイコック氏は次のように指摘している。

1932年には、世界中の資産に占めるゴールドと金鉱株の割合は20%だった。1948年には、その数字は30%になった。1981年には26%だった。

2024年の終わりの段階で、その数字は1%になっている。

1%だ。これは驚くべき数字だ。

ここ数十年の紙幣印刷と債務膨張で国債と紙幣がどれだけ膨らんだかということである。

そしてその紙幣と国債のバブルは、金価格が10倍になったぐらいではまだ崩壊したとは全然言えないのである。

結論

コロナ後の現金給付で紙幣の価値が決定的に下落したことで、ゴールドは一部の投資家には非常に注目されている。

特に中央銀行である。ヘイコック氏は次のように述べている。

2022年は極めて重要な年だった。ドルが武器化され、BRICS諸国や東側の中央銀行が米国債を売ってゴールドを買わなければならないと気付いた。ドル資産はアメリカにいつでも差し押さえられると気付いたからだ。

ヘイコック氏は以下の記事で、現在の金価格上昇でゴールドを買っているのは誰かについて説明していた。

中央銀行の買いは大きい。それが最近の金価格上昇の理由である。

だが、ゴールドが本当にバブルになるのは一般の投資家が参戦してからである。ヘイコック氏は次のように述べている。

中央銀行の執拗な買いが金価格を押し上げ続けているが、一般の人々はまだ動いていない。

ならば、年金基金や金融機関やファミリーオフィスなどの一般の投資家がゴールドを買い始めればどうなる? それほどの需要増加に対応できるゴールドの供給は存在しない。

レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』を思い出そう。この本によれば、どのような大国も最終的にはインフレと債務膨張で衰退する。それは大英帝国やオランダ海上帝国などの過去の覇権国家も例外ではなかった。

そして国家の衰退には、その国家の発行する通貨の衰退がつきものである。そして紙幣の価値がなくなるとき、人々は貴金属の買いに走る。

そして人々はまだ走っていない。それが重要なのである。


世界秩序の変化に対処するための原則