引き続き、Von Greyerzのパートナーであるジョニー・ヘイコック氏の自社配信動画におけるインタビューである。
今回は株式市場のバブルについて語っている部分を紹介したい。
コロナ後の銀行危機
前回の記事でヘイコック氏は、金融資産としての株式とゴールドの違いについて述べていた。
デフレの時代には株式のパフォーマンスは良かったかもしれないが、インフレの時代にはゴールドを持つべきだという論点である。
だが人々はまだ株式を称賛している。米国株は多少ぐらついているが、いまだに史上最高値付近で推移している。
だからヘイコック氏は次のように述べている。
人々の記憶力には驚くべきものがある。
2年前のクレディスイスの破綻でさえ、人々はほとんど覚えていない。
クレディスイスの破綻
スイスの大手銀行であるクレディスイスの破綻は、コロナ後の金利上昇による債券安がもたらした銀行危機の1つの結果である。
コロナ後の利上げによって国債の金利が上昇、価格が大幅に下落し、国債を大量に保有している銀行は保有資産の下落に悩まされた。その中で経営が怪しかったいくつかの銀行は実際に潰れた。
クレディスイスの経営が危なっかしいことは金融業界では常識であり、クレディスイスが資金難に陥り、ライバルのUBSに救済買収された時には、さもありなんと思ったものである。
債券の専門家であるジェフリー・ガンドラック氏は次のように述べていた。
クレディスイスがこれまでUBSに吸収合併されていなかったことの方がむしろ驚きだ。
シリコンバレー銀行
2023年の国債下落による銀行危機と言えば、その発端となったシリコンバレー銀行である。
シリコンバレー銀行はアメリカの地方銀行の中では最大級の銀行だったが、金利上昇で保有する国債の価格が下落したことで、預金者の取り付け騒ぎに発展し、破綻することとなった。
金利が上昇すれば国債の価格は下落するのだから、それは当然の結果である。金利が上昇する限り同じことが起き続ける。
だが人々はもう銀行危機の問題など終了したかのように思っている。高金利は終わっていないにもかかわらずである。
ヘイコック氏は次のように述べている。
シリコンバレー銀行はどうだ? 今では誰がシリコンバレー銀行の話をする? 誰もしない。
何故か? ほとんどの人々は高値を更新し続けるS&P 500やマグニフィセント・セブンやハイテク株のことしか見ていないからだ。
金利上昇がもたらすもの
だが、2023年の銀行危機はインフレの結果である。そしてヘイコック氏はインフレの時代が終わっていないと見ている。
インフレと金利上昇で一番国家の破綻に近づいた国がある。それはイギリスである。ヘイコック氏は次のように述べている。
わたしはイギリス人で、2022年のリズ・トラス政権がどれだけ酷かったかを見た。
トラス政権は7週間しか続かなかった。理由の1つは財源のない減税を行なったことだ。それでどうなったか? 英国債は一夜にして投げ売りされた。
ほんの少し前、2022年の秋のことだ。
トラス元首相は財源のない大規模なばら撒きを発表し、英国債と通貨ポンドを暴落させた。
クレディスイスと同じように、国債の下落は国債の保有者にダメージを与える。イギリスの場合は、年金基金だった。ヘイコック氏は次のように続ける。
それでイギリスの年金基金は資金不足に陥った。だがそのことさえ人々はもう忘れている。
イギリスの年金基金が2022年に破綻しなかった唯一の理由は、イングランド銀行が介入して英国債を買い入れ、債券市場を救済したからだ。それがなければイギリスのすべての年金基金は破綻していた。
そしてヘイコック氏は次のように言っている。
これから同じことがこれ以上に起き続ける。
国債の暴落と株式市場
イギリスで国債が暴落した時、当然株価も暴落しかけた。国債が救済されたことで株価も救済された。
だが中央銀行が緩和で救済するたび、インフレの熱が経済にどんどん溜まってゆく。そしていずれインフレで中央銀行が緩和できないタイミングが来る。レイ・ダリオ氏が言っていたシナリオである。
緩和による救済ができなくなったとき、それが国債と株式の終わりになるだろう。ヘイコック氏は次のように言っている。
バブルの徴候があらゆるところに出ている。
バブルは最終的には終わりを迎えなければならない。
そしてその時に株式の代わりに高騰するのはゴールドである。それが前回の記事のヘイコック氏の論点なのである。
だからインフレから逃避するために株式を買うというのはまったく理にかなっていない。ダリオ氏も次のように述べていた。
だからヘイコック氏は、インフレから身を守るために株式に投資する人について、2008年のリーマンショック時にほとんどの投資銀行が危機に陥った時のことを回想して次のように言っている。
2008年、わたしはモルガンスタンレーのトレーディングフロアで働いていた。ある義理堅い顧客からの電話を取ると、その人は「ジョニー、今日はモルガンスタンレーからお金をすべて引き揚げたいんだ。モルガンスタンレーは潰れかけだ」と言った。
リーマンショックでは多くの投資銀行がサブプライムローンでギャンブルをしたために大損を抱えていた。モルガンスタンレーは比較的軽症だったが、ダメージは受けていた。
だから顧客がお金を引き出したいと言うのも当然だろう。ヘイコック氏は次のように言っている。
モルガンスタンレーは確かに潰れかけだった。その人はこう続けた。「だからお金をすぐに全額クレディスイスに移してくれ」
非常によく出来た冗談だが、人々が金融危機から逃げ出そうとするとき、実際にこういうことが起きるのである。
そしてヘイコック氏が言いたいのは、インフレから身を守るために株式に投資することはまさにそういうことだということである。
ヘイコック氏は次のように続けている。
クレディ・スイスだって? お金、守れてないよ。守れてない。
結論
ヘイコック氏はあまり知られていないが、極めて優秀な人物だと思う。
筆者が思い出したのは、ジム・ロジャーズ氏が語っていた、第2次世界大戦前に戦争を避けるために南の島に移住したフランス人の話である。危機から逃げることとはどれほど難しいことだろうか。
株式が駄目ならば、投資家はどうすれば良いのか。ヘイコック氏は次のように奨めている。
ゴールドを現物で銀行システムの外に保有しなければならない。
「現物で」と言っているのは、ETFなどは現物が本当に返ってくるのか怪しいからだろう。ETF自体が破綻したり、政府に接収されたりする可能性がある。だから現物のゴールドを自分で持っておくことだ。
今の人々は大袈裟だと思うだろうが、ダリオ氏などが実際に警告している。コロナ前までは、インフレ政策でインフレになるという警告でさえ大袈裟だと思われていたのである。
だからヘイコック氏は次のように言っている。
ゴールドは正しい方法で保有しなければならない。それはゴールドという資産クラスを選ぶことそのものと同じくらい重要だ。
アダム・スミス氏が『国富論』でインフレとはものの価値が上がることはなく、通貨の価値が下がることだと説明していたことを思い出したい。
だから価値の下がる通貨と、通貨の価値下落から影響を受ける資産クラスを避け、価値を維持できる資産に投資するのである。そうすれば物価の上昇以上に自分の資産が上昇してゆく。
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国富論